切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 鬼神の類がどうの、ということであれば父も使えない。そもそも、そういったものが存在するかどうか在昌はかなり疑っている。
 しかし、そういったものとは別に真に効力を持った“術”というものも存在するのだ。
「お頼みもうす」
 清水はせっぱ詰まった声で訴え額を床にこすりつける。
「昔からそれがしは朋輩から、なにかあるといたく気が張るところを莫迦にされて来もうした。されど、先の毛利との戦で首級をあげたことで一人前であることをやっと認められたのでござる」
 もし、御屋形様の前で醜態を演じればふたたび物笑いとなりまする、と彼は半ば泣きそうな声で言葉をつづけた。
 必死、の一言だ。あるいは、その様を見ていて在昌は考えた。
「ひとつ、手がなくはない」
 と告げたとたん、清水の顔が勢いよく持ち上がりこちらを見上げる。
「ぜ、是非お頼みもうす」
「貴殿はこちを心から信じられまするか」
 勢い込む清水に対し、在昌はあくまでゆっくりとした声で応じた。相手の調子に乗せられないようにわざとそうしたのだ。
「むろん。むろんのこと」
 そんな問いかけに清水は声を張り上げた何度もうなずく。
 されば、と在昌は彼に対して指示をふたつ与えた。
 一、まず食を断つこと。
 二、なるだけ眠らずにいること。
 そして後日、蹴鞠の会の前日に在昌は清水のもとをおとずれた。
 小体な屋敷の一室で彼と対峙する。刻限は深更のことだ。
 ただし、こたびは彼だけでなく顔を覆面で隠した仁右衛門も同道している。彼の手には鼓が抱えられていた。
 清水はいわれたことを忠実に守っていたようすだ。目の下に隈をつくり、心なしかほおが削げたように見える。人は空腹や疲労、眠気によって正常な判断力を減じさせる。これで暗示にかかりやすい状態となっていた。
 そんな彼を前に、在昌は脇に置いていた弓を手にし立ち上がった。
「仁右衛門」と告げると、彼は側の灯明を吹き消す。
 そして、闇に鼓の音がひびきはじめた。
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