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   七

 とある日の朝。
 在昌は目が早くに覚めた。いつもなら同じ褥で眠りについている妻を起こさないよう留意しながければならないが今朝はその必要もない。なぜなら、彼が現在いるのは府内ではなく臼杵の丹生島だ。大友宗麟に呼ばれ昨夜は城の一角に泊まった。
 荷の中から木剣を取り出して、庭へと降り立つ。緊張のせいで四肢の感覚がすこしにぶったような状態にある。原因は“勝負”に挑むことへの心配だ。
「勝てるのであろうか」
 ふいに聞こえた声に、在昌は弾かれたようにそちらを見やった。
 先ほどの彼と同じく仁右衛門が姿を現す。手にはこちらと同様に木剣をにぎっていた。
「顔にそう書いてある」からかうように彼は言葉をかさねた。
「負けてもらっては困る」
「むろん」
 在昌は「勝つ」と言葉をつづけようとしたがそれを仁右衛門はさえぎる。
「子どもたちと接するのはなかなか楽しい。かような暮らしも悪くない」
「まことに叔父御のごとき、だな」
 彼の言葉に思わず在昌は小さく笑った。自然と緊張がほぐれる。
 同時に理解してもいた。今の言葉は仁右衛門なりの気づかいの結果なのだと。
「どうだ、おぬしも所帯を持っては」
 在昌は仁右衛門をからかい返す。
 だが、仁右衛門はすぐには返事をしなかった。その顔に浮かぶのはかすかにさびしさのにじむ笑みだ。
「俺は所帯は持てぬよ」
「所帯が持てぬ」
「とあるとき失敗(しくじ)ってしもうたのだ。捕えられた俺は、拷問で“ここ”をやられた」
 怪訝に思って聞き返した在昌に、仁右衛門は昏い笑みで応じながら股間をしめす。
「す、すまぬ」「なに、過ぎたこと」
 うろたえる在昌を滑稽に感じたらしく仁右衛門は笑みから翳りを消した。
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