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「こ、ここは」とうめきながら在昌は思わず後退った。
 彼の視線の先、病院の一室にひろがる光景は日の本の因習に照らし合わせれば絶対にありえないものだ。
「癩者(らいしゃ)だ。病院ではこの者たちも面倒をみておる」
 トーマスは哀切の念を双眸にやどしていた。
「されど、業病であろう」
「耶蘇教ではさようには教えておらぬ」
 在昌がなかば無意識のうちに発した言葉に、今度こそ本物の怒気のこもる声でトーマスは応じる。
 あ、と在昌は胸のうちで声をもらした。たしかにそんな教えは受けていない。
 日の本では前世で罪を犯した報いとして業病である癩を病むとされているが、それはあくまで“日の本の”宗門の教えだ。こちもまた知らぬうちに因習に囚われていたのか――在昌はそのことを思い知らされた。
 と、そこへ新たな人物が姿を現す。
「みなさま、お待たせしました」
 廊下を通り在昌の脇をすり抜け、たどたどしい日本語でしゃべりながら壮年の南蛮人が陽気な顔で癩者の部屋へ入室した。女性と見紛うような顔立ちをした彼は手に、琵琶の大きさを小さくし“くびれ”させたような鳴り物らしき代物をたずさえている。
 呆然自失の態に陥っている在昌の前で、南蛮人はくだんの代物を首のあたりに当てもう一方の手に握った棒のようなものを弦にはわせた。
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