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 声のぬしは壮年の人物で、衣装の端々になにやら“しみ”をつくっている。その様は話に聞く、戦場で怪我人に治療を施したあとの陣僧を連想させた。
「いや、こちは」
「さっさと参れ、病人が待ちわびておる」
 在昌の返答を待たずにくだんの者は袖をつかんで引く。
 その場に止める者はいない。家族や仁右衛門は屋内で白湯を馳走になっている。ただひとり、在昌だけが感無量の思いがおさえられなくなって表に出ていたのだ。
 在昌は「いや、その」と抗議の声をあげようとするが、「なんだ」とこちらを一瞥した壮年の男の激しい怒気をはらんだ視線に射すくめられ結局、文句を呑みこんだ。
 そのまま、北の建物へと連れていかれる。
「ここが病院だ」男は聞きなれない言葉を口にした。
「病院」
「病を得た者を、対価をもらわずに医師が施術するのだ」
 在昌の疑問の声に男が以外にも丁寧な口調で応じる。どうも怒っているというより、そういうふうに感じられる態度、口調を常のものとしている人間らしいと在昌は推測した。
「対価を受け取らずに」在昌は衝撃をおぼえる。
 たしかにアルメイダに妻の命を無償で救ってもらった身ではあるが、あれは火急の折だった。それを常時おこなっているとは信じられない。
「アルメイダ様のご尽力により、病院は建てられたのだ」
「アルメイダ様の」
 どこか誇らしげな男のせりふに、なるほど、と在昌は得心がいった。
 アルメイダの医術、後世でいう外科の業前の評判は病院開設から半年もたたないうちに京にまでひろがったという。彼は開院当初からひそかにマカオ貿易組合と提携し、生糸貿易に多額を投資して生糸を仕入れていた。そしてこれを売却しその利潤を病院の運営に当てていたのだ。
「されば、アルメイダ殿がおわす折にはあの御仁が医術をほどこされておられるのか」
 在昌の問いかけに男の表情が苦渋に満ちたものとなる。
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