15 / 167
15
しおりを挟む 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「やったー、ゆきのカプセルにミスターソイドのフィギュアが入ってたよ! ここに4人で来たかいがあったよ!!」
「良かったですね。コラボメニューの料金ははたこ先輩持ちですし、私も先輩方とスイーツビュッフェ来られて嬉しいです」
ある日曜日、私は硬式テニス部のいつもの3人の先輩方と繁華街のスイーツビュッフェ専門店に来ていた。
このスイーツビュッフェは以前からテレビアニメやゲームとのコラボメニューを展開しており、赤城旗子先輩は最近はまっている少年漫画原作のテレビアニメ『スパイ大家族』のグッズを目当てに私と堀江有紀先輩、平塚鳴海先輩を連れてきたのだった。
4人で1皿ずつ注文したコラボメニューには1皿につきグッズが入ったカプセルが1つ付いてきて、はたこ先輩が欲しがっていたアニメの主人公のフィギュアはゆき先輩のカプセルに入っていたらしかった。
「あのアニメはわたくしも声優の勉強のために見ていますけど、視聴者に一番人気なのは旗子と鳴海のカプセルに入っていたエスニャみたいですわね。転売すれば結構高く売れるかも知れませんわ」
「うちはまなちゃんが当てたレディミッドナイトの方が乳でかいし美脚やしええと思うけどな。それよりこのパスタ美味しいわ!」
「甘い洋菓子が多いのでアクセントにいいですよね。あ、何か向こうの方で騒いでます?」
店舗の入り口近くのテーブルから店員さんとお客さんが言い争うような声が聞こえてきたので、私たちはそちらに目をやった。
「お客様、コラボメニューを複数注文してくださったのはありがたいのですが当店では食べ残しはご遠慮しておりまして。罰金などを頂くつもりはありませんが、今後はこのようなことは控えていただければと……」
「えー、だって私たちビュッフェのメニューは全部食べきりましたよ? コラボメニューは単品注文なのに食べ残しちゃ駄目なんですかぁ?」
「お気持ちは分かりますが、でしたら1人で複数のコラボメニューを注文するのは……」
「仕方ないじゃないですか! コラボメニューはどのグッズが当たるかランダムなのに、20種類以上もあるグッズから目当てのを引き当てなきゃいけない側の気持ち分かりませんか? 私たちに文句言う前にこういうランダム商法を何とかしてください!!」
女子大生かOLさんに見える複数名の女性客は剣や刀をイケメンキャラに擬人化したソーシャルゲーム『美剣ボーイズ』のコラボメニューを大量に注文して食べ残したらしく、これはどうしても目当てのグッズを手に入れたい客側の事情も食べ残しを敬遠する店側の事情も理解できる一件だと私は思った。
「いくら理屈並べても食べ残しはあかん思うけどな。せやけど沢山種類があるグッズを指定できへんのも確かに大変やな」
「難しい話ですわね。……そうですわ、こういったトラブルから新たなお仕事を作れそうですわ! 帰ったら早速準備を始めます!!」
店員さんに怒りながら帰っていった女性客を見てゆき先輩はまた何かお金儲けを思いついたらしく、今回はせめて人のためになる商売であって欲しいと私は思った。
その翌月……
「マルクス中高アメフト部の皆様、本日はこのスイーツビュッフェにお集まり頂きありがとうございます。今回は皆様からビュッフェの料金の半額を頂き、依頼主の女性からは残りの半額とコラボメニューの代金を頂いております。どうぞスイーツビュッフェを半額で楽しんでくださいませ」
「ありがとうございます! でも、それじゃ堀江先輩は儲からないんじゃ?」
「マナの弟君、その点は心配ありませんわ。依頼主が不要なグッズは全てわたくしが引き受け、それを転売すればいくらでも元は取れるという訳です。気兼ねなくお召し上がりなさいませ!!」
「やったー! 部員の皆、今日は皆でビュッフェを食べまくるぞ!!」
「「イエッサー!!」」
『スイーツビュッフェのコラボメニューが原因の食べ残し問題に対処するため近頃都内で広まっている食事代行サービスですが、新たな問題が発生しています。食事代行役として店舗を訪れる男子運動部員のグループが原価割れするほどにビュッフェを食べ尽くす事態が頻発しており、一部の店舗では男性集団客の入店を断る動きも発生しているとのことです』
「キィー! せっかく新しい商売を思いついたのに邪魔されるなんて許せませんわ!! ここは大学の女子レスリングサークルにでも話を持っていくしかありませんわね」
「は、ははは……」
街頭のテレビモニターで流れているニュースを見て商売の改善策を考えているゆき先輩に、私は先輩の何があっても諦めない姿勢にはある意味憧れるなあと思った。
(続く)
「やったー、ゆきのカプセルにミスターソイドのフィギュアが入ってたよ! ここに4人で来たかいがあったよ!!」
「良かったですね。コラボメニューの料金ははたこ先輩持ちですし、私も先輩方とスイーツビュッフェ来られて嬉しいです」
ある日曜日、私は硬式テニス部のいつもの3人の先輩方と繁華街のスイーツビュッフェ専門店に来ていた。
このスイーツビュッフェは以前からテレビアニメやゲームとのコラボメニューを展開しており、赤城旗子先輩は最近はまっている少年漫画原作のテレビアニメ『スパイ大家族』のグッズを目当てに私と堀江有紀先輩、平塚鳴海先輩を連れてきたのだった。
4人で1皿ずつ注文したコラボメニューには1皿につきグッズが入ったカプセルが1つ付いてきて、はたこ先輩が欲しがっていたアニメの主人公のフィギュアはゆき先輩のカプセルに入っていたらしかった。
「あのアニメはわたくしも声優の勉強のために見ていますけど、視聴者に一番人気なのは旗子と鳴海のカプセルに入っていたエスニャみたいですわね。転売すれば結構高く売れるかも知れませんわ」
「うちはまなちゃんが当てたレディミッドナイトの方が乳でかいし美脚やしええと思うけどな。それよりこのパスタ美味しいわ!」
「甘い洋菓子が多いのでアクセントにいいですよね。あ、何か向こうの方で騒いでます?」
店舗の入り口近くのテーブルから店員さんとお客さんが言い争うような声が聞こえてきたので、私たちはそちらに目をやった。
「お客様、コラボメニューを複数注文してくださったのはありがたいのですが当店では食べ残しはご遠慮しておりまして。罰金などを頂くつもりはありませんが、今後はこのようなことは控えていただければと……」
「えー、だって私たちビュッフェのメニューは全部食べきりましたよ? コラボメニューは単品注文なのに食べ残しちゃ駄目なんですかぁ?」
「お気持ちは分かりますが、でしたら1人で複数のコラボメニューを注文するのは……」
「仕方ないじゃないですか! コラボメニューはどのグッズが当たるかランダムなのに、20種類以上もあるグッズから目当てのを引き当てなきゃいけない側の気持ち分かりませんか? 私たちに文句言う前にこういうランダム商法を何とかしてください!!」
女子大生かOLさんに見える複数名の女性客は剣や刀をイケメンキャラに擬人化したソーシャルゲーム『美剣ボーイズ』のコラボメニューを大量に注文して食べ残したらしく、これはどうしても目当てのグッズを手に入れたい客側の事情も食べ残しを敬遠する店側の事情も理解できる一件だと私は思った。
「いくら理屈並べても食べ残しはあかん思うけどな。せやけど沢山種類があるグッズを指定できへんのも確かに大変やな」
「難しい話ですわね。……そうですわ、こういったトラブルから新たなお仕事を作れそうですわ! 帰ったら早速準備を始めます!!」
店員さんに怒りながら帰っていった女性客を見てゆき先輩はまた何かお金儲けを思いついたらしく、今回はせめて人のためになる商売であって欲しいと私は思った。
その翌月……
「マルクス中高アメフト部の皆様、本日はこのスイーツビュッフェにお集まり頂きありがとうございます。今回は皆様からビュッフェの料金の半額を頂き、依頼主の女性からは残りの半額とコラボメニューの代金を頂いております。どうぞスイーツビュッフェを半額で楽しんでくださいませ」
「ありがとうございます! でも、それじゃ堀江先輩は儲からないんじゃ?」
「マナの弟君、その点は心配ありませんわ。依頼主が不要なグッズは全てわたくしが引き受け、それを転売すればいくらでも元は取れるという訳です。気兼ねなくお召し上がりなさいませ!!」
「やったー! 部員の皆、今日は皆でビュッフェを食べまくるぞ!!」
「「イエッサー!!」」
『スイーツビュッフェのコラボメニューが原因の食べ残し問題に対処するため近頃都内で広まっている食事代行サービスですが、新たな問題が発生しています。食事代行役として店舗を訪れる男子運動部員のグループが原価割れするほどにビュッフェを食べ尽くす事態が頻発しており、一部の店舗では男性集団客の入店を断る動きも発生しているとのことです』
「キィー! せっかく新しい商売を思いついたのに邪魔されるなんて許せませんわ!! ここは大学の女子レスリングサークルにでも話を持っていくしかありませんわね」
「は、ははは……」
街頭のテレビモニターで流れているニュースを見て商売の改善策を考えているゆき先輩に、私は先輩の何があっても諦めない姿勢にはある意味憧れるなあと思った。
(続く)
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)倭寇が明の女性(にょしょう)を犯した末に生まれた子供たちが存在した……
彼らは家族や集落の子供たちから虐(しいた)げられる辛い暮らしを送っていた。だが、兵法者の師を得たことで彼らの運命は変わる――悪童を蹴散らし、大人さえも恐れないようになる。
そして、師の疾走と漂流してきた倭寇との出会いなどを経て、彼らは日の本を目指すことを決める。武の極みを目指す、直刀(チータオ)の誓いのもと。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――

陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)猟師として生きている栄助。ありきたりな日常がいつまでも続くと思っていた。
だが、陣借り無宿というやくざ者たちの出入り――戦に、陣借りする一種の傭兵に従兄弟に誘われる。
その後、栄助は陣借り無宿のひとりとして従兄弟に付き従う。たどりついた宿場で陣借り無宿としての働き、その魔力に栄助は魅入られる。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) 世は戦国乱世、豊後を侵した毛利元就対抗するためにひそかに立ち上がった者がいた。それは司祭(パードレ)アルメイダ。元商人の彼は日頃からその手腕を用いて焔硝の調達などによって豊後大友家に貢献していた。そんなアルメイダは、大内家を滅ぼし切支丹の布教の火を消した毛利が九州に進出することは許容できない。ために、元毛利家の忍びである切支丹ロレンソ了斎を、彼がもと忍びであることを知っているという弱みを握っていることを盾に協力を強引に約束させた――
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる