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あの仁は――中肉中背、取り立てて特徴のない顔立ちと平平凡凡を形にしたような外見をしているが、そのなかで無明の闇のような昏いまなざしだけが異彩を放っている。確かに見覚えのある顔貌だ。それは勘解由小路家の養子となり在昌の兄、嫡子となった在種が死んだ折に目の当たりにしたものだ。
ずばり、兄を殺めた下手人として。
身なりこそ行者のものでかつてと違うが、忍び装束を着せればまごうことなくあのときに在昌が目撃したそれと一致していた。
自分が三〇代だったころの記憶が瞬間的に甦る。
所用があり、嫌々ながらも在昌は父のもとをおとずれていた。
ところが、呼んでも誰も出てこない。しようがないためくぐり戸を使ったのだが、抵抗なく戸が開いたのだ。怪訝に思いながらも在昌は大声で人を呼ばわりながら家屋へと近づいていく。
濡れ縁まであと少し、というところで彼は錆を思わせる臭いを鼻腔に感じた。
まさか、と不吉な予感をおぼえる。兵法の稽古の折、同門の者が木刀を受け損ねたときに同じ異臭に接したことがある。
ずばり、兄を殺めた下手人として。
身なりこそ行者のものでかつてと違うが、忍び装束を着せればまごうことなくあのときに在昌が目撃したそれと一致していた。
自分が三〇代だったころの記憶が瞬間的に甦る。
所用があり、嫌々ながらも在昌は父のもとをおとずれていた。
ところが、呼んでも誰も出てこない。しようがないためくぐり戸を使ったのだが、抵抗なく戸が開いたのだ。怪訝に思いながらも在昌は大声で人を呼ばわりながら家屋へと近づいていく。
濡れ縁まであと少し、というところで彼は錆を思わせる臭いを鼻腔に感じた。
まさか、と不吉な予感をおぼえる。兵法の稽古の折、同門の者が木刀を受け損ねたときに同じ異臭に接したことがある。
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