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「こちらの方の目にはそのように映るようですが、まったく違います」
 彼は少し困ったような顔で問いかけに応じた。
「果物から作った酒なのですよ、これは」
「果物から」
 どんな果物なのか、とおどろかずにはいられない。師のヴィレラから南蛮の様々な事柄について聞き及んではいたが、やはりまだまだ知らないことがあるようだ、そう実感して在昌はうれしくなる。
 彼は天文の知識を深めるために切支丹となった、だから自分にとって“未知”の知識や事物に接することで期待がふくらむのだ。京を出て豊後へとくだっている理由のひとつが、府内に多く住む、あるいはおとずれるという南蛮人たちから天文に関する知識を得ることだ。
 フランシスコ=ザビエルはイエズス会総長への書簡のなかで『日本へ来る神父は、また日本人への無数の質問に答えるため学識をもつことも、必要なことである。〈中略〉日本人は、天体の運行や、日蝕や、月の盈缺の理由などを、熱心に聞くからである』と説いたこともあり、日の本にやって来る伴天連(バテレン)は天地の理について精通していた。
「飲んでみてください」
 アルメイダにうながされ、在昌は違和感を捨てきれないながらも盃を口にはこぶ。信仰に篤いというわけではないとはいえ、やはり師と“同じ” 司祭(パードレ)が相手となると逆らいがたいものがあった。
 次の瞬間、在昌は顔をしかめそうになるのをこらえた。舌の上になんともいえない珍妙な味が広まっている。
「どうやら、お口に合わないようだ」
 こちらの胸中を見破りながらも、アルメイダは特に機嫌をそこねるでもなく快活に笑う。
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