切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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小刻みに身体がふるえ出し、目頭が熱を帯びる。球帽子、袖のたっぷりとした上衣、それにカソックという名の下衣、南蛮人の身なりはまさしく“切支丹”の物だ。
 ふたりいる切支丹のうちの片方、長身で知的な風貌をした南蛮人が口にくわえていた煙管の全長を短くし、代わりに全体的に太くしたような代物を手に取った。のちに在昌はそれがまさしく南蛮の煙管、パイプであると知ることになる。
「薬をご所望とお聞きしたが」同宿の通詞を介し長身の南蛮人が話しかけてきた。
 在昌は勢い込み木製のロザリオをふところから取り出して掲げる。門徒の証である品を目の当たりにし、屋内に居合わせた切支丹たちの目が見開かれた。
「私はヴィレラ様に師事しております、マノエル在昌ともうす者にございます」
「それは本当ですか。それに、我らの言葉を話せるのですね」
 例の道具を手にした南蛮人がおどろきと感動の入り混じった声を出した。
「本当でございます」「よく参られましたね」
 在昌の返答に、南蛮人は何度もうなずく。と、そこでなにかを思い出した顔つきになった。
「わたしはアルメイダともうします。それで、今回はどういったご用件でまいられたのですか」
「実は」在昌は数日前に妻が子を産んだこと、それ以来、体調を崩していることを告げる。
「それは心配ですね」
 アルメイダは自分のことのように心配してみせ、
「薬を用意しますので奥方様に飲ませあげてください」
 快く薬を分けることを承知した。
 その返答に、在昌は崩れ落ちそうになるほどの安堵をおぼえた。まだ妻が回復したわけではないが、それでもなんの手立てもなくただ見守るしかなかったことを考えると脱力せずにはいられない。
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