子ども白刃抜け参り(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別作品、別名義で)

牛馬走

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「助かった、礼をいう」
「そうかそうか、礼をいうか」
 助之進はしかたなしに告げた。なぜか、正家はそれだけのことでひどく声を弾ませる。
 おかしな奴だ――正直、いい印象を持っていなかった助之進だが改めて考えるとそう悪い人間でもないように思えてきた。
「ありがとう」「ほんとうに助かった」
 志乃と晴幸も礼をのべる段になると、正家の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
 その表情を見ていると、思い悩んでいるのが馬鹿らしいような気が少しではあるがしてくる。

      ● ● ●

 この日の宿は朽ちたお堂のなかでということになった。
 兄弟子たちの目を誤魔化すための着物の調達で時間を食ったせいで行程が遅れたのが原因だ。
 ただ、恨む筋合いではない。むしろ申し訳なくあった。自分たちの身勝手な行動のせいで彼らが江戸を離れざるをえなくなったのは事実だ。
 後ろめたさのせいか夜の稽古には身が入る。下草をかき分けながら、助之進と晴幸は木剣の唸りを幾度も生じさせた。交錯し、行き違い、攻防をくり広げる。斬られる前に斬る、その要諦を強く噛みしめるように実行した。
「ほう、余の知らぬ太刀筋だの」
 気づくと、お堂から正家が姿を現し稽古を見守っている。助之進と晴幸は渋い顔になって視線を交わした。
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