子ども白刃抜け参り(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別作品、別名義で)

牛馬走

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 助之進と晴幸は落ち込んでおり、志乃もまたそんなふたりに声をかけかねているようすでいる。
 そうして味を感じない朝餉を済ませ、ただ黙々と距離を稼ぐという当初の目的を忘れた行程を進めた。
 日が中天に来たところで志乃が、
「昼食にしましょう」
 と主張したため、空腹を忘れた助之進も水掛け茶屋の縁台に腰をおろした。
 もうひとつの縁台には先客の姿がある。助之進たちと同年代の少年だ。菅笠に、手甲脚絆姿と旅装で側に風呂敷包みの長細い荷を置いていた。抜け参りで子供が伊勢を目指すこともあることとはいえ、ひとりで茶屋で食事をとっているのはめずらしかった。
 しかも、上背が助之進と同じぐらいだ。その上、
「いやあ、蕎麦というものは美味なものだ」
 初めて蕎麦を食べたかのようにおおげさに感動している。
「そんなに美味そうにたぐってくれると、こっちも作った甲斐があるってもんだよ」
 茶屋の老婆が目を細めて彼に応じた。
 もう一杯くれ、という言葉にますます嬉しそうな表情を浮かべる。
 能天気なやつだ――助之進は、半ば八つ当たり気味にそんな思いを抱いた。自分たちはすでに二度も危険な目に遭ったというのに一方でこんな暢気な少年が無事に往来できていることがどうにも理不尽に思える。
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