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気配を察して晴幸と背中の娘が首を曲げてこちらを見た。こちらが剣尖を娘の首筋に突きつけているのを目の当たりにし両者は瞠目する。
「な」と晴幸が質問を発するより早く、「晴幸の路銀を返してもらろうか護摩の灰」と助之進が告げるようが早かった。
とたん、晴幸はすぐ側の娘への視線をすばやく転じる。娘の反応は心当たりのない者のそれではなく、ことを仕損じたという悔し気なものだった。
彼女が死角のほうの腕を胸元にのばそうとするのに、助之進は筋肉や関節の発するかすかな兆候から気づく。それを助之進は静かに制した。
「よからぬ真似をいたすな、そなたの首を薙ぐほうが早いぞ」
「わかったよ、返しゃいいんだろ」
すると、娘は本性をあらわしてふてぶてしい態度をとって掏りとっていた胴巻を手に晴幸の背を降りる。晴幸は複雑な顔になって胴巻を受け取った。
「どうするんだい、あたいを役人に突き出すのかい」
「いや、先を急ぐ身だ。見逃してやる」
娘は挑むように問いかける。助之進は思案の末に応じた。
「ふん、恩着せがましい」
娘は礼をいうどころか悪態をついて去って行った。それを見送った志乃が小さく笑う。
「な」と晴幸が質問を発するより早く、「晴幸の路銀を返してもらろうか護摩の灰」と助之進が告げるようが早かった。
とたん、晴幸はすぐ側の娘への視線をすばやく転じる。娘の反応は心当たりのない者のそれではなく、ことを仕損じたという悔し気なものだった。
彼女が死角のほうの腕を胸元にのばそうとするのに、助之進は筋肉や関節の発するかすかな兆候から気づく。それを助之進は静かに制した。
「よからぬ真似をいたすな、そなたの首を薙ぐほうが早いぞ」
「わかったよ、返しゃいいんだろ」
すると、娘は本性をあらわしてふてぶてしい態度をとって掏りとっていた胴巻を手に晴幸の背を降りる。晴幸は複雑な顔になって胴巻を受け取った。
「どうするんだい、あたいを役人に突き出すのかい」
「いや、先を急ぐ身だ。見逃してやる」
娘は挑むように問いかける。助之進は思案の末に応じた。
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