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 時は少し遡る。
「取り返そう」と助之進が告げたとき、晴幸は一瞬自分が胴巻を掏られたことも忘れて朋友の顔を凝視した。
 初めてだったのだ。
 助之進がみずから“なにがかしかをなそう”“したい”と主張したのは。
 いつもは異見を求められてすら、躊躇うようすを見せて口を閉ざすということが多かった。「国許の朋友が重役となってな、今日わしは気分がいい。好きな物を食わせてやるから遠慮なく申せ」と師に目を見て告げられても言葉を返せない、などという具合だ。
 その朋友が自分から、それも晴幸のために行動しようと発言したのだ。
 路銀のことを心配する一方で、助之進の新たな一面に出会えたことが嬉しい。
 だが、その思いが後悔に変わることになった。
 見つけ出した護摩の灰がいきなり長脇差を抜いたのだ。武士が荒事と縁遠くなって久しい昨今、剣の腕を磨いていてもこんな展開になるなど想像だにしなかったのが晴幸の実情だった。
 足が太い糸で何重にも縫い付けられている、そう錯覚するほどに足もとが硬直している。
 まずい、と幾度も胸中でくり返した。
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