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 こういった事情があり、大友家は内紛の危機におちいっていた。これを回避するために宗麟が選んだのが日向への出兵だ。このきっかけとなったのは、日向中央部を支配していた伊東義祐(いとうよしすけ)が天正六年一月、薩摩の島津義久に攻められて日向を追われ、大友家を頼って豊後に亡命してきたことだ。義祐の子、義益の正室阿喜多は宗麟の姪に当たり同盟関係にあった。伊東義祐によって島津への楯があったからこそ、薩摩から直に攻撃を受けてこなかった。しかし、伊東が破れたことで一挙にそれが失われ、その上、今まで大友に服従していた日向北部の県の領主、土持親成(ちかしげ)が寝返ったために直接の脅威を受けるようになったのだ。
 ようよう毛利狐を鎮西から締め出したを思えば――こたびは島津か、と了斎は嘆息せずにはいられない。もはや、切支丹ために忍び働きを厭う気はなかった。だが、それでもできうるなら静かに門徒として暮らしたいというのが本音だ。毛利は尼子氏への対応や因幡侵攻、さらには織田信長との戦に忙殺され、ふたたび九州に入ることはなかった。元亀二年に梟雄、毛利元就は世を去った、これでやっと思えば今度は島津が急速にその勢力を伸ばしている。
 そして、三万の大友軍は南下、県にせまり土持の出城を次々に攻略し、ついには土持父子の居城松尾城を攻め落とした。この戦で親成の子鎮綱(しげつな)は自刃、親成は捕えられのち豊後に連行されて浦辺で自害させられる。
 その後、宗麟と義統は土持領内の社寺を焼き払うように命じたのだ。
 燃え上がる赤い業火は、切支丹への憤怒が形をとっているように了斎には見える。かようなものをいくつもこしらえ――無事で済むはずがない、と彼は予見していた。
 ロレンソ、と呼ぶ声が聞こえてくる。
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