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 先ほどの発砲音があったのとは、毛利勢を頂点にして三角の図を描くような地点から無数の銃声がとどろく、なりひびく、とどろきわたった。
「見よ、あの旗を。大友家の物ぞ」
 その余韻をかき消すかのごとき叫び、声をあげたのは了斎だ。
 彼が指さす先、無数の銃声があがった地点、森の木立がとぎれる場所に確かに無数の旗がひらめている。
 種をあかしてしまえば簡単だ。
 彼らは毛利の領国内においてひそかに信仰を守ってきた切支丹たちだった。
 大内麾下の将士が逃散して無用の長物となった鉄砲を彼らに持たせ使わせている。むろん、にかわ仕込みで毛利の軍勢を撃退できるとは了斎も考えていない。
 事実、銃声の数の割に騎馬武者を襲った銃丸の数はあまりに少なかった。
 が、突如の狙撃、さらに無数の銃撃、つづいて目の当たりにしてのは大友家の旗、おどろきの連続に対し毛利の士卒たちは浮き足立つ。
「静まれ、仮に大友の奴輩が兵を差し向けたとて、大軍であれば物見に見つからぬ道理はない」
 うろたえた者を静めようと物頭や組頭が口々に怒鳴った。
 しかしたやすくは騒ぎは静まりそうにない。
 他方、了斎は彼らを尻目にすでに動き出していた。周囲の目を引かぬよう陣屋を目指す。

 蠢く毛利の軍勢を遠目にしながら、次郎丸は新たな狙撃地点で片ひざを地面についた。
 小柄な子供の上に、無数の発砲によって気をそらされ見つかる懸念は皆無にひとしい。中物見に動き出した士卒たちもまったく異なる方角へと向かっていた。
 駆けてきたためにはずんだ呼吸を静め、一方で深く吸って狙撃の準備をととのえる。
 そして呼吸を止めた。
 師がもちいていた日の本ではまず見ない、銃床を肩に当てる鉄砲を構えた姿勢で巨大な岩石にも匹敵する静止を得る。
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