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その思いを噛みしめながら動きを慌ただしくした毛利勢のなかで了斎は待った。
一揆勢がこもるのは断崖にもうけられた山城だ。もっとも、その規模からいって館と呼ぶことさえはばかられる程度のものだが。
大きな種類の蟻が小さな種の同胞の巣を攻め立てるように、山道を列をなした将士が続々と進む。槍の穂先が歩みに合わせて揺れ、陽光のもとで剣呑な光を周囲へと放った。彼らの先頭にいるのは鉄砲衆だ。数は少なくとも、建家を打ち砕いてしまう兵器は弓矢よりも城攻めに威力を発揮する。
そんな光景を遠くに望みながら、了斎は本陣に近い中備えの将士に混ざっていた。
山城へと兵を向けたことで本陣近辺は多少なりとも警備が手薄になっている。
ましてや、少しはなれた陣屋に囚われたアルメイダの警固となれば。
了斎は本陣のななめ後方へと目を向ける。司祭(パードレ)、必ずやお救いいたしまする――。
そこに、大気をしびれさせるような銃声の轟音がとどろいた。
はじまった――城攻めが、了斎は心のなかでつぶやく。
しかし、開始されたのはそれだけではない。
例の陣屋があるのとは反対の方角、森から突如としてとどろく騒音。
刹那、旗本の騎馬武者のひとりが落馬する。
城のほうから騒擾の気配が聞こえるが、対照的に一瞬の静寂がくだんの武士の周辺に下りた。
「伏奸か」「いずこだ」
次の瞬間、静寂を足がかりにしたように無数の怒号が飛び交う。
馬が動揺して身じろぎするせいで旗本勢の影は波打っているようにも見えた。
彼らは気づきようがないがこの瞬間、筒先をそろえて騎馬武者の群れを狙う者たちがいる。
一揆勢がこもるのは断崖にもうけられた山城だ。もっとも、その規模からいって館と呼ぶことさえはばかられる程度のものだが。
大きな種類の蟻が小さな種の同胞の巣を攻め立てるように、山道を列をなした将士が続々と進む。槍の穂先が歩みに合わせて揺れ、陽光のもとで剣呑な光を周囲へと放った。彼らの先頭にいるのは鉄砲衆だ。数は少なくとも、建家を打ち砕いてしまう兵器は弓矢よりも城攻めに威力を発揮する。
そんな光景を遠くに望みながら、了斎は本陣に近い中備えの将士に混ざっていた。
山城へと兵を向けたことで本陣近辺は多少なりとも警備が手薄になっている。
ましてや、少しはなれた陣屋に囚われたアルメイダの警固となれば。
了斎は本陣のななめ後方へと目を向ける。司祭(パードレ)、必ずやお救いいたしまする――。
そこに、大気をしびれさせるような銃声の轟音がとどろいた。
はじまった――城攻めが、了斎は心のなかでつぶやく。
しかし、開始されたのはそれだけではない。
例の陣屋があるのとは反対の方角、森から突如としてとどろく騒音。
刹那、旗本の騎馬武者のひとりが落馬する。
城のほうから騒擾の気配が聞こえるが、対照的に一瞬の静寂がくだんの武士の周辺に下りた。
「伏奸か」「いずこだ」
次の瞬間、静寂を足がかりにしたように無数の怒号が飛び交う。
馬が動揺して身じろぎするせいで旗本勢の影は波打っているようにも見えた。
彼らは気づきようがないがこの瞬間、筒先をそろえて騎馬武者の群れを狙う者たちがいる。
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