忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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   五

 夕暮れの景色に人影が濃くなって夜の気配がにじむ。
 煮炊きの煙が空へと筋となっていくつものぼっていた。命を落とした者の魂が天を目指している、そんなふうに感じるのは了斎の感傷だろうか。
 今日、毛利の軍勢は一揆の集団のひとつをあっけなく粉砕していた。見せしめの意味があるのだろう有無をいわさず将士をすべて撫で斬りにしている。吹き上がる血と悲鳴、鼻をつく血臭、アルメイダに元忍びとしての業前を買われてなかば無理やりに対毛利の工作に加わるまでずっと避けてきた光景だった。
 しかし今回、了斎はみずから軍立場に立った。目をそらすのは止めにしたのだ。己の手は血に汚れている。
 だが、そんな手からこそなしうることがあるのだ、そう思い定めて。せめて、
 大内殿、どうぞご無事で――。
 自分を水月の術で毛利の軍兵にまぎれこませるために働いた大内輝弘が命をつないでいることを胸中で願った。
 けれども、了斎が陣中の一角で足を止めて発したのはそんな心のうちとは正反対の能天気な声だ。集落のはずれ、たいらな場所に陣屋の与えられない将士が思いも思いに夕餉の準備をしている。
「おぬしら、どうだ一勝負」
 了斎は手にしている物、双六を掲げてみせた。平安の世の頃から賭け事のひとつとして遊ばれている代物だ。
「お、よいな」「まっこと、ひとは欲深きことよ。命のやり取りをしておきながら、賭け事に興じたくなる」
 陣中の一角にあつまっている足軽たちが双六を目の当たりにして表情をあかるくする。
 実は、こうやって足軽たちのもとに双六を片手におとずれるのは今日が初めてではない。毛利勢にまぎれこんですでに二日目だ。昨日の夕方から夜にかけても同じことをしていた。
 勝負が一段落したところで、
「銭(あし)の代わりにこれでどうだ」
 と酒のはいった瓢(ふくべ)をかかげてみせる、という手順をくり返している。
 わざと了斎は負けては酒を相手に差し出していた。
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