100 / 131
150
しおりを挟む
復讐の念に駆られるままに行動しようとした次郎丸が、みなのために大友家に仕える、それもそのためには生きなければならないと応じたのだ。己のうちの負の感情を乗り越え、かつ死地に臨むことにおびえるどころかその先を見すえるという態度は、もはや子供ではない。
アルメイダ殿、おぬしの“償い”は間違ってはおらぬ――。
● ● ●
縛にかけられ、足軽ふたりに見張られてアルメイダは毛利勢、吉川元春麾下の将士のまっただなかに囚われ歩かされている。周囲は人や馬が大地を踏む音、鎧櫃からもれる甲冑がこすれる音、雑談の声や馬のいななきで満ちている。
このなかから逃げ出すのは至難の業、いや自分には不可能だろうと踏んでいた。
周囲の軍兵のなかには忍びもまぎれてこちらを監視しているだろう。
すでに大友の忍びが幾人か犠牲になるのを目撃し、あるいはその事実が嘲笑とともに足軽の口から「無駄なことを」というせりふ交じりに告げられていた。
あるいは了斎ならば遁走も不可能ではないのではないか、とも思う。
最初は無理やりに忍びとして立ち働くことを求めた。自分でも信仰を盾に無理強いすることの卑怯さはわかっているが、子供を誤って撃ち殺したあの日から罪をかさねることの覚悟はできている。いくら神を奉じようが、祈ろうが、きっと己は地獄に堕ちるのだ。
悔い改めよ、と耶蘇教の言葉にはある。
悔いるのはたやすい。
だが、どう改めればいいのだ。今後のことはたしかに色々と心がけることはできる。
しかし、過去を“改める”ことなどできないのだ。
けれども――と思う。了斎の姿が脳裏に浮かんでいた。
これまで彼と衝突したことなどアルメイダはない。そもそも、了斎という人間が信仰に疑問を呈すなどということがありえなかった。
アルメイダ殿、おぬしの“償い”は間違ってはおらぬ――。
● ● ●
縛にかけられ、足軽ふたりに見張られてアルメイダは毛利勢、吉川元春麾下の将士のまっただなかに囚われ歩かされている。周囲は人や馬が大地を踏む音、鎧櫃からもれる甲冑がこすれる音、雑談の声や馬のいななきで満ちている。
このなかから逃げ出すのは至難の業、いや自分には不可能だろうと踏んでいた。
周囲の軍兵のなかには忍びもまぎれてこちらを監視しているだろう。
すでに大友の忍びが幾人か犠牲になるのを目撃し、あるいはその事実が嘲笑とともに足軽の口から「無駄なことを」というせりふ交じりに告げられていた。
あるいは了斎ならば遁走も不可能ではないのではないか、とも思う。
最初は無理やりに忍びとして立ち働くことを求めた。自分でも信仰を盾に無理強いすることの卑怯さはわかっているが、子供を誤って撃ち殺したあの日から罪をかさねることの覚悟はできている。いくら神を奉じようが、祈ろうが、きっと己は地獄に堕ちるのだ。
悔い改めよ、と耶蘇教の言葉にはある。
悔いるのはたやすい。
だが、どう改めればいいのだ。今後のことはたしかに色々と心がけることはできる。
しかし、過去を“改める”ことなどできないのだ。
けれども――と思う。了斎の姿が脳裏に浮かんでいた。
これまで彼と衝突したことなどアルメイダはない。そもそも、了斎という人間が信仰に疑問を呈すなどということがありえなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
マルチバース豊臣家の人々
かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月
後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。
ーーこんなはずちゃうやろ?
それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。
果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?
そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?
暁のミッドウェー
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。
真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。
一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。
そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。
ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。
日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。
その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
(※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)
加藤虎之助(後の清正、15歳)、姉さん女房をもらいました!
野松 彦秋
歴史・時代
加藤虎之助15歳、山崎シノ17歳
一族の出世頭、又従弟秀吉に翻弄(祝福?)されながら、
二人は夫婦としてやっていけるのか、身分が違う二人が真の夫婦になるまでの物語。
若い虎之助とシノの新婚生活を温かく包む羽柴家の人々。しかし身分違いの二人の祝言が、織田信長の耳に入り、まさかの展開に。少年加藤虎之助が加藤清正になるまでのモノカタリである。
どこまでも付いていきます下駄の雪
楠乃小玉
歴史・時代
東海一の弓取りと呼ばれた三河、遠州、駿河の三国の守護、今川家の重臣として生まれた
一宮左兵衛は、勤勉で有能な君主今川義元をなんとしても今川家の国主にしようと奮闘する。
今川義元と共に生きた忠臣の物語。
今川と織田との戦いを、主に今川の視点から描いていきます。
一ト切り 奈落太夫と堅物与力
IzumiAizawa
歴史・時代
一ト切り【いっときり】……線香が燃え尽きるまでの、僅かなあいだ。
奈落大夫の異名を持つ花魁が華麗に謎を解く!
絵師崩れの若者・佐彦は、幕臣一の堅物・見習与力の青木市之進の下男を務めている。
ある日、頭の堅さが仇となって取り調べに行き詰まってしまった市之進は、筆頭与力の父親に「もっと頭を柔らかくしてこい」と言われ、佐彦とともにしぶしぶ吉原へ足を踏み入れた。
そこで出会ったのは、地獄のような恐ろしい柄の着物を纏った目を瞠るほどの美しい花魁・桐花。またの名を、かつての名花魁・地獄太夫にあやかって『奈落太夫』という。
御免色里に来ているにもかかわらず仏頂面を崩さない市之進に向かって、桐花は「困り事があるなら言ってみろ」と持ちかけてきて……。
武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~
田島はる
歴史・時代
桶狭間の戦いで今川義元が戦死すると、武田家は外交方針の転換を余儀なくされた。
今川との婚姻を破棄して駿河侵攻を主張する信玄に、義信は待ったをかけた。
義信「此度の侵攻、それがしにお任せください!」
領地を貰うとすぐさま侵攻を始める義信。しかし、信玄の思惑とは別に義信が攻めたのは徳川領、三河だった。
信玄「ちょっ、なにやってるの!?!?!?」
信玄の意に反して、突如始まった対徳川戦。義信は持ち前の奇策と野蛮さで織田・徳川の討伐に乗り出すのだった。
かくして、武田義信の敵討ちが幕を開けるのだった。
鷹の翼
那月
歴史・時代
時は江戸時代幕末。
新選組を目の敵にする、というほどでもないが日頃から敵対する1つの組織があった。
鷹の翼
これは、幕末を戦い抜いた新選組の史実とは全く関係ない鷹の翼との日々。
鷹の翼の日常。日課となっている嫌がらせ、思い出したかのようにやって来る不定期な新選組の奇襲、アホな理由で勃発する喧嘩騒動、町の騒ぎへの介入、それから恋愛事情。
そんな毎日を見届けた、とある少女のお話。
少女が鷹の翼の門扉を、めっちゃ叩いたその日から日常は一変。
新選組の屯所への侵入は失敗。鷹の翼に曲者疑惑。崩れる家族。鷹の翼崩壊の危機。そして――
複雑な秘密を抱え隠す少女は、鷹の翼で何を見た?
なお、本当に史実とは別次元の話なので容姿、性格、年齢、話の流れ等は完全オリジナルなのでそこはご了承ください。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる