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 吉川元春といえば大内輝弘討伐のために進軍してきている部将だ。アルメイダを救おうと思うのなら、毛利家家中にあってその勇猛さと優秀さを知られた武将のもとに潜入しなければならない。
 したが、行方が知れただけでも重畳――暗中模索するよりはいい、と了斎は自分に言い聞かせた。
 こうして“本物の”了斎は切支丹のために命をかけて奔走している一方、畿内においてもまた彼の影武者が実は活動している。織田信長の御前でおこなわれた宗論などに参加したのだ影武者のほうだ。了斎に似た者を探さずとも、いざとなれば彼自身が影武者に似た容貌に化ければいいため身代わりを選ぶのに苦労はなかった。

      ● ● ●

 物々しい雰囲気の高嶺城の一隅、闇にまぎれて言葉を交わす者たちがいる。
「おまえ、なにゆえにあの小娘にこだわる」
 一方は了斎を倒すことを念願とする忍び、小七郎だ。
「なにゆえ」と聞き返すのは尼子を裏切った忍び、金介だった。
 応じる尼子の裏切り者の声にはどこか剣呑なひびきがこもっている。面白半分に人の心に土足で踏み込む気か、あるいは揶揄(からか)う肚づもりかと相手の意図を勘ぐったのだ。
「大層な器量良しかもしれぬが、女人などいくらでもおろう」
 ただ、小七郎の顔に浮かんでいるのは心底の疑問だった。悪意は一欠けらも感じられない。ある意味、自然の理に疑問を抱く童にも似た表情を浮かべている。
 毛利の本隊が鎮西から引き上げてくるのに対し大内勢が見せる反応を直に確かめようと包囲する一揆勢を目の当たりにできる場所に共に移動してきたのだが、まさかそんな問いかけをされるとは思わなかった。
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