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にじむ視界、そこに信じられないものを彼は認める。
「よくも殺したな」
盲目のはずの、しかも死んだはずの男児が目を開いてこちらを倒れた状態で見上げているのだ。
眼窩に眼球はなく、洞を思わせる暗黒がふたつ存在するのみだった。
刹那、了斎は勢いよく目を開ける。
そこは店の敷地ではなく、大内輝弘の陣地の陣屋のひとつだ。粗末な小屋の天井が視界には広がっていた。
あれを機に――了斎は忍びを辞めたのだ。大きく息をつきながら確認するまでもないことを考えた。
琵琶法師に化けることが多いだけに“盲目”ということに対しては一角ならぬ思いがあった。目の見えぬ者が送るであろう人生について思いを巡らせたことも一度や二度ではない。
そんな者の、それも子供の命を奪った。その事実は、忍びとしての生に倦んでいた了斎の背中を押すには十分以上のものがある。
● ● ●
秋穂浦への上陸の翌日、大内勢は旧大内館に陣を構え高嶺城を包囲した。絶好の好機の到来に大内遺臣が続々と集結し、六〇〇〇の将士が集まっている。
ただ、順調だったのはここまでだ。城主・市川経好は鎮西の立花に出征中で留守だったが、妻が“女城主”として指揮をとりおどろくべきことに城を支えたのだ。
一方、尼子、大内侵攻の報を受けた長府の毛利元就は頭を抱えた。だが、百戦錬磨の“毛利狐”の判断は迅速を極める。立花城の息子たち、吉川元春と小早川隆景に対し「即刻下関を退去せよ」とつたえた。
元春と隆景は大友軍が間近に対峙しているだけに、とてもできない相談だと判断し「無理」である旨を返す。劣勢におちいったわけでもないというのに敵に背を向けることへの抵抗もあった。
だが、元就は「ならば夜半に対陣せよ」とかさねて指示した。
同時に追い討ちをかけられる懸念が無用である“保証”が存在することも内々につたえられる。
「よくも殺したな」
盲目のはずの、しかも死んだはずの男児が目を開いてこちらを倒れた状態で見上げているのだ。
眼窩に眼球はなく、洞を思わせる暗黒がふたつ存在するのみだった。
刹那、了斎は勢いよく目を開ける。
そこは店の敷地ではなく、大内輝弘の陣地の陣屋のひとつだ。粗末な小屋の天井が視界には広がっていた。
あれを機に――了斎は忍びを辞めたのだ。大きく息をつきながら確認するまでもないことを考えた。
琵琶法師に化けることが多いだけに“盲目”ということに対しては一角ならぬ思いがあった。目の見えぬ者が送るであろう人生について思いを巡らせたことも一度や二度ではない。
そんな者の、それも子供の命を奪った。その事実は、忍びとしての生に倦んでいた了斎の背中を押すには十分以上のものがある。
● ● ●
秋穂浦への上陸の翌日、大内勢は旧大内館に陣を構え高嶺城を包囲した。絶好の好機の到来に大内遺臣が続々と集結し、六〇〇〇の将士が集まっている。
ただ、順調だったのはここまでだ。城主・市川経好は鎮西の立花に出征中で留守だったが、妻が“女城主”として指揮をとりおどろくべきことに城を支えたのだ。
一方、尼子、大内侵攻の報を受けた長府の毛利元就は頭を抱えた。だが、百戦錬磨の“毛利狐”の判断は迅速を極める。立花城の息子たち、吉川元春と小早川隆景に対し「即刻下関を退去せよ」とつたえた。
元春と隆景は大友軍が間近に対峙しているだけに、とてもできない相談だと判断し「無理」である旨を返す。劣勢におちいったわけでもないというのに敵に背を向けることへの抵抗もあった。
だが、元就は「ならば夜半に対陣せよ」とかさねて指示した。
同時に追い討ちをかけられる懸念が無用である“保証”が存在することも内々につたえられる。
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