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尼子に合力したときは特段目だった働きをしなかったために力量について知る機会がなかったが、
“呼吸”の読みがすぐれておる――。
身体能力が異常に高い、兵法が格段に達者ということはないが、攻撃の機を読み取り攻撃を避ける、くり出す“間”が絶妙だった。ある意味、もっとも忍びに向いた資質の持ち主だ。
ために、水面に向かって戦いをいどんでいるようなもどかしさがある。
程なくして手持ちの棒手裏剣が切れた。了斎は迷わずに忍刀(しのびがたな)を抜く。
内心、この事態を歓迎していなかった。大刀をもちいてすら鎖鎌を相手取るのは厄介だ。だというのに、打刀に比して全長の短い得物で立ち向かわなければならないのは不利だった。
が、む、と金介があさっての方向に視線をちらと向けたかと思うとこちらが忍刀を構える間を読んで間合いをはずす。
視線の先、煙玉のものらしき煙幕が森のなかからあがっていた。
「目的は果たした。ひとまず戦いは終わりだ」
一方的に鉾をおさめるや、金介は煙玉を足元に投じた。
とっさに了斎は追尾できない。不用意に突っ込めば返り討ちになる危険性が高かった。そんな彼をあざ笑うように、
「天竺宗の坊主の命が惜しければ逃げるな」
という言葉が煙幕の向こうから投げかけられる。
司祭(パードレ)が――了斎はうめくような声を心のうちでもらした。煙がうすれ不意打ちを警戒せずに済むようになったころにはとうに敵は逃げ失せている。
それでも、了斎は先ほど煙幕があがった森を目指して全力で駆けた。
“呼吸”の読みがすぐれておる――。
身体能力が異常に高い、兵法が格段に達者ということはないが、攻撃の機を読み取り攻撃を避ける、くり出す“間”が絶妙だった。ある意味、もっとも忍びに向いた資質の持ち主だ。
ために、水面に向かって戦いをいどんでいるようなもどかしさがある。
程なくして手持ちの棒手裏剣が切れた。了斎は迷わずに忍刀(しのびがたな)を抜く。
内心、この事態を歓迎していなかった。大刀をもちいてすら鎖鎌を相手取るのは厄介だ。だというのに、打刀に比して全長の短い得物で立ち向かわなければならないのは不利だった。
が、む、と金介があさっての方向に視線をちらと向けたかと思うとこちらが忍刀を構える間を読んで間合いをはずす。
視線の先、煙玉のものらしき煙幕が森のなかからあがっていた。
「目的は果たした。ひとまず戦いは終わりだ」
一方的に鉾をおさめるや、金介は煙玉を足元に投じた。
とっさに了斎は追尾できない。不用意に突っ込めば返り討ちになる危険性が高かった。そんな彼をあざ笑うように、
「天竺宗の坊主の命が惜しければ逃げるな」
という言葉が煙幕の向こうから投げかけられる。
司祭(パードレ)が――了斎はうめくような声を心のうちでもらした。煙がうすれ不意打ちを警戒せずに済むようになったころにはとうに敵は逃げ失せている。
それでも、了斎は先ほど煙幕があがった森を目指して全力で駆けた。
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