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 風病を得ているのだ。忍びとしてはあるまじきことだが、人間であればありえないことではない。それがよりにもよって重要な策戦の折と重なったことは当人にとっては痛恨事だろうが。
 そんな彼女のもとを了斎は手桶を片手におとずれた。とたん、れんの瞳が力をとりもどし鋭い視線を投げかける。
 何をしに来た、そんな無言の恫喝は叫喚にも匹敵する明瞭さをそなえていた。
 れんの態度を無視する形で了斎は桶の縁にひっかけていた手拭いを空いているほうの手でつかみ彼女の額に乗せようとした。あらかじめ濡らしてしぼってある物だ。
 が、れんはこちらの看病を拒む。力のない手つきでこちらの腕をふりはらう。
「大内殿はすべてを了見しておられた」
 了斎は特に意図があったわけではないがつたえておくべきだと思いそう告げた。
 こちらの言葉を受け、れんの双眸が大きく見開かれた。
「当人に確かめたのか」
「さようだ」
 れんの大声に了斎はしずかに応じる。
「なにゆえ、さような慮外なことを」
「“誤っておる”そう責めたのはおぬしだろう」
「それは」
 了斎の返答にれんはあきれと戸惑いが入り混じったような顔つきになった。
「みずからの所業に過ちがないか鑑み、かつ守るべきもののためなら罪を背負う、さようにわしは覚悟した」
 静謐だが力強い語調で告げる了斎をれんは畏れに近い念のやどった目で見る。
「誰ぞのいうがままに過ちを犯せば、罪を背負って立つための足場すらもままならぬからな」
 そのせりふはある意味、れんの存在を否定するようなものだ、ために了斎は冗談めかした声音で言葉をかさねた。
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