75 / 131
125
しおりを挟む
今日はアルメイダ、大内輝弘とふたりの要人がそろっている瞬間が狙われた。実は、雨のせいで川が増水するという出来事があり、了斎たちが府内入りする日取りは予定とずれていた。それだというのいうのに狙いすましたようにアルメイダが大内輝弘と対面する機を狙ってきた。
尼子の戦に合力したときも、了斎たちの存在が敵にもれていた。だからこそ、伏奸(ふせかまり)が配されていたに違いない。
これらのことを考え合わせると、内通者がいるに相違ないという結論に達していた。
問題は誰が、ということだ。
あきらかに怪しいのは尼子の忍びふたり。
それもアルメイダには告げていないが、了斎を「仇だ」といったれんが怪しかった。
「そのことについてはすでに手は打っておりまする」
了斎は複雑な思いを抱きながら応じる。
はぐらかされた、という感情もあり、己を仇だという娘を都合よく排除するような仕儀になっているような後ろ暗さも感じていた。
府内からすこしはなれた集落の廃屋。
深更に人がおとずれるのには不似合いなその場所に人影が姿を現す。
その様を樹上からうかがう者の姿があった。了斎だ。
頼む、違(ちご)うていてくれ――祈るような思いを胸に抱いていた。いや、神(デウス)よ、と声に出さずに唱えている。
脳裏にはアルメイダの『しかも、あの折に父は海賊に殺されてしまった。私は贖罪をする相手すらもいなくなってしまった』という言葉がまたたいていた。
過去から目を背けることで了斎は具体的な償いについて考えることを無意識のうちに拒んでいた。
だが、実際に己を仇を呼ぶ者が現れた。無論、れんのことだ。
仔細はわからない。しかし、己が重ねることを厭った行為、その犠牲のうちに怒りや悲しみにさいなまれるに至ったというのならやはり償わなければならない。お前はわたしにとって仇だ、と告げられてから頭の片隅でつづけた思索が導き出した答えはそういうものだった。
尼子の戦に合力したときも、了斎たちの存在が敵にもれていた。だからこそ、伏奸(ふせかまり)が配されていたに違いない。
これらのことを考え合わせると、内通者がいるに相違ないという結論に達していた。
問題は誰が、ということだ。
あきらかに怪しいのは尼子の忍びふたり。
それもアルメイダには告げていないが、了斎を「仇だ」といったれんが怪しかった。
「そのことについてはすでに手は打っておりまする」
了斎は複雑な思いを抱きながら応じる。
はぐらかされた、という感情もあり、己を仇だという娘を都合よく排除するような仕儀になっているような後ろ暗さも感じていた。
府内からすこしはなれた集落の廃屋。
深更に人がおとずれるのには不似合いなその場所に人影が姿を現す。
その様を樹上からうかがう者の姿があった。了斎だ。
頼む、違(ちご)うていてくれ――祈るような思いを胸に抱いていた。いや、神(デウス)よ、と声に出さずに唱えている。
脳裏にはアルメイダの『しかも、あの折に父は海賊に殺されてしまった。私は贖罪をする相手すらもいなくなってしまった』という言葉がまたたいていた。
過去から目を背けることで了斎は具体的な償いについて考えることを無意識のうちに拒んでいた。
だが、実際に己を仇を呼ぶ者が現れた。無論、れんのことだ。
仔細はわからない。しかし、己が重ねることを厭った行為、その犠牲のうちに怒りや悲しみにさいなまれるに至ったというのならやはり償わなければならない。お前はわたしにとって仇だ、と告げられてから頭の片隅でつづけた思索が導き出した答えはそういうものだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
マルチバース豊臣家の人々
かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月
後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。
ーーこんなはずちゃうやろ?
それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。
果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?
そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?
どこまでも付いていきます下駄の雪
楠乃小玉
歴史・時代
東海一の弓取りと呼ばれた三河、遠州、駿河の三国の守護、今川家の重臣として生まれた
一宮左兵衛は、勤勉で有能な君主今川義元をなんとしても今川家の国主にしようと奮闘する。
今川義元と共に生きた忠臣の物語。
今川と織田との戦いを、主に今川の視点から描いていきます。
鷹の翼
那月
歴史・時代
時は江戸時代幕末。
新選組を目の敵にする、というほどでもないが日頃から敵対する1つの組織があった。
鷹の翼
これは、幕末を戦い抜いた新選組の史実とは全く関係ない鷹の翼との日々。
鷹の翼の日常。日課となっている嫌がらせ、思い出したかのようにやって来る不定期な新選組の奇襲、アホな理由で勃発する喧嘩騒動、町の騒ぎへの介入、それから恋愛事情。
そんな毎日を見届けた、とある少女のお話。
少女が鷹の翼の門扉を、めっちゃ叩いたその日から日常は一変。
新選組の屯所への侵入は失敗。鷹の翼に曲者疑惑。崩れる家族。鷹の翼崩壊の危機。そして――
複雑な秘密を抱え隠す少女は、鷹の翼で何を見た?
なお、本当に史実とは別次元の話なので容姿、性格、年齢、話の流れ等は完全オリジナルなのでそこはご了承ください。
よろしくお願いします。
武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~
田島はる
歴史・時代
桶狭間の戦いで今川義元が戦死すると、武田家は外交方針の転換を余儀なくされた。
今川との婚姻を破棄して駿河侵攻を主張する信玄に、義信は待ったをかけた。
義信「此度の侵攻、それがしにお任せください!」
領地を貰うとすぐさま侵攻を始める義信。しかし、信玄の思惑とは別に義信が攻めたのは徳川領、三河だった。
信玄「ちょっ、なにやってるの!?!?!?」
信玄の意に反して、突如始まった対徳川戦。義信は持ち前の奇策と野蛮さで織田・徳川の討伐に乗り出すのだった。
かくして、武田義信の敵討ちが幕を開けるのだった。
加藤虎之助(後の清正、15歳)、姉さん女房をもらいました!
野松 彦秋
歴史・時代
加藤虎之助15歳、山崎シノ17歳
一族の出世頭、又従弟秀吉に翻弄(祝福?)されながら、
二人は夫婦としてやっていけるのか、身分が違う二人が真の夫婦になるまでの物語。
若い虎之助とシノの新婚生活を温かく包む羽柴家の人々。しかし身分違いの二人の祝言が、織田信長の耳に入り、まさかの展開に。少年加藤虎之助が加藤清正になるまでのモノカタリである。
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる