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 右のようなことを頭の片隅で考えながらもれんは旋風(つむじ)を巻いて動き襲撃を退けた。
 しかし、危機をくぐり抜けてなおその心はおだやかなものではない。
 憎むべき相手だと思っていたというのに――。
 了斎は仲間から信頼を寄せられるような人柄の男だ。
 いや、そもそも尼子の将士のために共に立ち働いた折に、自分が“仇”という人物に対し思い描いていた人間とは違うことを認めている。
 山の民の子供の口封じにかたくなに反対した。
 非道な男であればそんなことなどするはずがない。
 それに、れんが城にもぐりこんでの火つけを成功させて合流したときの了斎の反応、あれはどう考えても心からのものだ。あの折に偽の行為など見せてもなんの得があるというのだ。
 だが、それでも“きっとなにか思惑があるに違いない”と思うことでれんは身のうちの総身を燃やし尽くす勢いの炎の火勢が弱まるのを抑えた。
 これが消えてしまったら、いったい自分はなにを目的にして生きればいい。
 たとえ肉体が生きていたとしても、そんな己は屍と変わらない、そんな背筋が凍るような心地をおぼえていた。短筒が吐き出した硝煙が無性に目に沁みる

   三

 人が目の前で殺されかけた、その事実は“現在(いま)”の了斎にはとてつもなく大きかった。
 尼子に与力したときは、あくまで戦いのなかで双方が命を落としていくという状況だ。攻められた城側の者にしてみれば「奇襲をしておいて、とても戦(いくさ)と呼べるものではなかった」というだろうが、少なくとも了斎の主観ではそういうふうに感じられた。
 しかし、こたびの件は違う。
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