忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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　夜明け前。すでに了斎たちの姿は山の民の集落にはなかった。城のそびえる山、その森林のなかに身をひそめている。
　山の民たちに代わり、かたわらには尼子勢の士卒の姿があった。
「合力すれば“しがらみ”が生まれる。どうしてもそれが足枷になる」
　といって山の民たちは静観の構えをとったのだ。
　先だっての助力はあくまで、息子を殺さなかったことへの“恩”をかんげみてのこと、ということだった。
「小父(おじ)さん、たしかにこちらのことは敵に漏れていないの」
　静かに待つことに耐えかねたのか、鉄砲を肩にかついだ次郎丸が側で息を殺す金介へと目を向ける。
　周囲では懸命に気配を殺し、せまる戦いへの恐怖や興奮をおさえる士卒たちのせいで息苦しいような空気がただよっていた。
「おれを疑うのか」
　次郎丸の言葉に、剣呑な顔で金介が応じる。
「なにもそこまでいってない」
　すこし気圧されたようすで次郎丸はまゆをひそめた。
「だったら、黙って待っていろ。それとも、れんの奴が失敗(しくじ)ったという了見か」
　さらに金介が表情をけわしくしたまま言葉をかさねたため、次郎丸は気を呑まれて口を閉ざす。
　なにもそこまでいう必要はないのではないか――と了斎は思うものの、ここで口をはさむと彼までも金介との間に溝が生じそうだと思い結局、口を開かなかった。
　アルメイダも胸中は同じなのか黙っている。