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 了斎が後ろ暗く思うのは山の民たちに対してだけではない。次郎丸もまたその対象だった。
 いくら元が武家の子でもおそらくは初めて修羅場を経験した日だ、疲れきっていたのだろうまぶたがくっついてしまいそうなほど目を閉じて次郎丸は熟睡している。はっきりと鼾も聞こえていた。
 その様はほほえましい。だが、だからこそ捨て置けないと了斎は思う。次郎丸をこのまま戦力として加えておくことについて苦言を呈しようと考えていた。
 だが、いきなり司祭(パードレ)を非難するのは気が引ける。
 ためにまず、了斎は関連する話題を口にした。
「アルメイダ様の鉄砲の業前、水際立ったものでございますね」
「パイプを吹かして撃てるならもっと精確に狙えますよ」
 了斎の言葉に、あぐらをかいて座り実際にパイプを吹かしながらアルメイダが冗談で応じる。
「神学校で、まさか鉄砲の撃ち方を教えるなどということはないでしょう」
 了斎の探るような口調にアルメイダの瞳がかすかに翳った。パイプを吸っては吐く間がすこし長くなったような。
「日本に向かう途上で船員から習いおぼえました。過酷な旅路を渡っていくのに、身を守る術のひとつも身につけておいても損ではないだろう、そう考えたのですよ」
 あくまであわい笑みを浮かべてアルメイダは言葉をかさねた。
 直後、その表情が苦悶へと変わる。
「神の教えに背いた代償は小さくなかった。海賊が襲ってきた折に、私は日頃から船員に褒めそやされていた鉄砲の腕を披露しました。なに、相手を殺さなければいい、そんなふうに軽く考えていたのです」
 そう告げてアルメイダが沈黙した。
「なにがあったのですか」
「誤って、船員の子供を撃ち殺してしまいました」
 了斎は先をうながさずにはいられなかったが、返答を耳にして後悔する。聞くべきではなかった、と。アルメイダもまた、自分のように過去を“背負って”いるのだ、それを掘り返すべきではなかった。
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