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 そのようすをはなれた場所でうかがう者がいた。
 たかが忍びひとりと鉄砲の放ち手ふたりを相手にあの体たらくか――。
 胸のうちで毒づく。これでは内通した甲斐がないというものだ。いくら主力が鎮西に攻め込んでいるとはいえ、たかが諜者三人を始末できないようでは毛利の先行きもさほど明るくなさそうだ。
 旭日の勢いだという織田に仕えるの手か――そんな考えが脳裏に浮かぶ。
 しかし、まずは目の前の問題をなんとかしなければならない。
 自分たちを散々に使い潰しながらかえりみることのなかった尼子の武士どもを皆殺しにしてやるのだ。
 家族が死んだのも、大元の部分ではきゃつらのために忍び働きをしていることに原因がある。
 されど――うまくことを運ばなければならない。
 そのために、仲間を死なせてしまっては元も子もなかった。
 気は進まないが、こたびはもう尼子勢の殲滅はあきらめたほうが懸命なのかもしれない。
 返す返すも憎いのは了斎、貴様だ――。
 すでに視界からほぼ消えている相手に、その者は怨嗟の声を吐いた。

   五

 士卒たちの待ち伏せを切り抜けた夜、了斎たちは先だって世話になった山の民たちの集落の天幕でふたたび一夜を過ごすこととなった。彼らの向後を思うと心苦しいものがある。
 自分たちに合力したことへの礼を了斎は例の川辺で遭遇した子供の父にのべたのだが、
「俺たちがそうしたいと思ってしたことだ」
 と淡々とした口調で応じられてはそれ以上告げるべき言葉もない。
 ただ、集落の者が交替で周辺を警戒する羽目におちいっておりやはり申し訳なかった。むろん、集落自体が昨夜とは別の場所にうつされている。村の老若男女全員が移動を余儀なくされたのだ。
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