忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 士卒たちも突然の遭遇であっけにとられているようすだ。機先を制さなければこの数の敵を相手をくぐり抜けることは不可能だ。
 そうだ、敵だ。偶然、こんな場所で得物を手にした余人と遭遇するはずがない。
「司祭(パードレ)、次郎丸。刻を稼ぐ、先へ行け」
「次郎丸、お行きなさい」
「されど、師匠」
 連鎖的に了斎、アルメイダ、次郎丸が切迫した声をあげた。
「鉄砲撃ちとしての私の代わりはあなたにもできます。そのためにも生き延びなさい」
 アルメイダが一転、おだやかな口調で告げる。
 寸瞬の間のあと、視界の端を次郎丸が遠ざかった。元が武家の子であるためかしっかりとした足取りで走りに揺るぎがない。
「アルメイダ殿も」
「伊留満(イルマン)を見捨てたとあっては、神もお許しにならないでしょう」
 肩越しにふり返って彼をうながすが、ひょうひょうとした笑みを浮かべて司祭(パードレ)は首を左右にふる。
 京での短筒の業前は目の当たりにしていた。
 議論している時間が惜しい、と了斎は判断をくだす。
 刹那、士卒たちも動き出した。我に返ったようすで次郎丸を逃がすまいと数人が追随しようとうする。
 その進路に割り込む形で了斎は疾駆した。
 せまる敵を目の当たりにし、士卒たち追跡が止まる。小僧など捨て置け、そんな判断が働いたのか。
 忍具は使えない。透波が入り込んでいる、その事実が毛利方に知れるような危険は冒せなかった。
 現在、了斎は猟を生業とする者の身なりをしている。
 風が唸る。間合いに踏み込んだ了斎を敵の薙刀が迎えたのだ。
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