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「いかがだ」と了斎はその場で唯一のれんに視線を向ける。そのまなざしには、むろん断ってくれても叶わない、という念がこもっていた。いや、むしろ断ってくれることを望んでいた。
 だが、
「引き受けた」
 どこか反発するような響きの声でれんは応じたのだ。
「わしのことをなにやら厭っているようだが、意地を張るような形で判じるでない」
「子どもでもあるまいし、意地を張って判断を誤りなどしない」
 了斎の言葉に、莫迦にするなとばかりの顔をれんはする。
 厭うておることは否定せなんだな、了斎は胸のうちでつぶやいた。
「とにかく、わだかまりがあるようでは向後に差し支える。わしを殴って気が済むなら」
 さようにいたせ、という暇は与えられない。
 れんの腕が電光と化した。瞬間、みぞおちを衝撃が突き抜け息が詰まる。
「これで気が済んだと思うな」
 そう言い残すと、れんは自分が割り当てられた天幕のほうへもどっていった。
 かような一撃をくれた上に『これで気が済んだと思うな』か――了斎は声に出すことすら叶わずその場に屈み込んで心のうちでうめく。命がけの任に挑んでいるはずが、小娘の癇癪でひどい目に遭っているという現実がとてもなさけなかった。
 と、そこへ足音が近づいてくる。
 うつむけていた顔をあげると、なんとれんがきびすを返しもどってきたらしく仁王立ちになってこちらを見下ろしていた。
「ひとつ、聞いておきたい」
「なんだ」彼女の言葉に了斎はやっとのことで応じる。正直なところ、もう少し呼吸をととのえるのに専念したかった。
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