忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 その気魄に、れんがあっけにとられたようすを一瞬見せる。が、すぐに鋭い目でこちらをにらんだ。
「我らのことがもれれば、向後に差し支える」
「子どもが行方をくらませば騒ぎとなろう」
 れんの言葉に対し了斎は一歩もゆずらぬ姿勢をしめす。
 その横でアルメイダが動いた。なにやら懐から小袋を取り出し、さらに中身を手のひらへと移す。
「美味い物が欲しくないか、坊や」
 彼は腰を低くして男児と目線を合わせながらやさしくたずねた。
 相手の視線は警戒をにじませながらも、アルメイダが手のひらに乗せたなにやら変わった形の“物”、こんぺいとうへとそそがれる。
「お前は誰だ」
「天狗だ」
 男児の問いかけにアルメイダが少し厳めしい声を出した。その返答に目を見開いて「天狗」と男児はくり返す。
 上手い、と了斎は思わず内心うなった。なにやら怪しげな者たちを山中で見たとなれば、その話が万が一城の人間につたわった場合に警戒を強める契機ともなりかねない。
 だが、子どもが「天狗を山で見た」と訴えたとしてそれを大人が取り合うかとなると怪しいものだ。アルメイダはみずからの異国の人間としての顔貌を生かした嘘をとっさにこしらえてみせた。
「これはなんだ」
 男児がすっかりと信じ切ったようすでたずねる。その目線はこんぺいとうをとらえていた。好奇心に目が輝いている。
 そんなやり取りなどどこ吹く風で、こちらから少しはなれた場所にかがみこむ次郎丸はみずすましと無邪気に戯れている。これでこたびの件に何か役立つのか了斎は頭の片隅で疑問を抱かずにはいられなかった。
「天狗が特別にこしらえる食い物だ。天上に登る気分を味わえるほど上手いが、これを渡した者のことを大人に告げれば死に至る」
 アルメイダの返答に、死に、と男児は言葉を失う。
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