忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「尼子の軍兵の数は二〇〇余、国許に残り城を守る将士の数にもともすると劣る数」
 同じく異国(とつくに)の言葉で応じ、彼の主張に了斎は同意する。同時に、どんな考えがあるのかと耶蘇教の軍師を見据えた。
「攻めあぐね、あるいは手間取れば毛利陸奥守は鎮西の軍勢を引き上げさせ、大軍に攻められた末、尼子の軍勢は壊滅するでしょう」
「されば」といいかける了斎に、アルメイダは早まるなとばかりにかぶりをふってみせた。
「毛利の敵が尼子だけだと思いますか、伊留満(イルマン)」
 毛利の敵、と了斎は思考をめぐらせる。そして、すぐに思い当たった。
「まさか」
 告げかけたところで、
「我らにもわかる言葉で話せ」
 と尼子の透波の片方が不機嫌に口をはさむ。尼子鹿之助との会見の場にも居合わせた陰険な顔つきをした壮丁、金介だ。
「大内家の生き残りが軍勢を引き連れ海を渡って長門に攻め入る、と説明していたところです」
 アルメイダが少し不自然に感じる程度の流暢な日本語に切り替えて彼に応じる。
 鹿之助との会話を耳にしていたとはいえ、即座に南蛮人の口から大八島の言葉が出てくると戸惑うのか金介は鼻白んだようすを見せた。
 それを目の当たりにしアルメイダがいたずらの成功をよろこぶ子どものように笑う。
 そんな彼らを視界におさめながらも、了斎は内心舌を巻いていた。
 さすがだ、と。もともと事実上の大内家の最後の当主、大内義隆は切支丹の布教を許していたこともあり庶流である輝弘ともアルメイダはつながりがあった。それを利用し、海を渡って攻め入るよう説き伏せたのだろう。
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