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理由はわからないらしいが、こうすると予後がいいという経験則のなせる業だ。
若者の体が硬直する。が、さらに彼の総身はこわばることとなった。
アルメイダが針と糸を取り出したためだ。
「我慢してください」
何度も助手をつとめる者がくり返すうちにおぼえたせりふをアルメイダはややたどたどしい口調で告げる。
そして傷口を縫い始めた。
暴れる、若者が激しく。それをロレンソは必死におさつえつけた。腕力ではなく、総身の筋肉の力を動員し、さらに重心も利用する。それでも一苦労だ。
修羅場から遠ざかっていたために、
錆びついた――。
のだ、彼がかつて身につけていた技倆も。
複雑な思いがする。一片の未練もなく過去は捨て去った。それは間違いない。
それでも血がにじむ思いがして習得した技術がにぶっていたという事実はなんともいえないむさしさを感じさせる。
「お次の方を」
「次の仁を」
アルメイダに告げられ、ロレンソはそれを訳した。
目の前の一事に徹しよう――彼は鬱屈とした思いと、よみがえりそうになる過去を胸の奥に押し込める。
アルメイダの適切な処置のおかげで、深手を負った者もそれ以上、傷を悪化させずに済み山中鹿之助たちの信頼を得ることができた。
ただ、相変わらず例の娘はロレンソのことを非友好的な目で見つづけている。
なんなのだ――ロレンソは心のなかでつぶやかずにはいられない。
自分が直接処置をほどこしたわけではないとはいえ、医療もまた“命を扱う”行為のため一定の緊張を強いられる。
若者の体が硬直する。が、さらに彼の総身はこわばることとなった。
アルメイダが針と糸を取り出したためだ。
「我慢してください」
何度も助手をつとめる者がくり返すうちにおぼえたせりふをアルメイダはややたどたどしい口調で告げる。
そして傷口を縫い始めた。
暴れる、若者が激しく。それをロレンソは必死におさつえつけた。腕力ではなく、総身の筋肉の力を動員し、さらに重心も利用する。それでも一苦労だ。
修羅場から遠ざかっていたために、
錆びついた――。
のだ、彼がかつて身につけていた技倆も。
複雑な思いがする。一片の未練もなく過去は捨て去った。それは間違いない。
それでも血がにじむ思いがして習得した技術がにぶっていたという事実はなんともいえないむさしさを感じさせる。
「お次の方を」
「次の仁を」
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ただ、相変わらず例の娘はロレンソのことを非友好的な目で見つづけている。
なんなのだ――ロレンソは心のなかでつぶやかずにはいられない。
自分が直接処置をほどこしたわけではないとはいえ、医療もまた“命を扱う”行為のため一定の緊張を強いられる。
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