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 追跡の気配はない。それを確認し、一応の遠回りをして彼は配下の者とともに町の一角にある小屋同然の一軒家へと向かった。
 空家だ。打ち続く戦乱のせいで京という土地はそういった住居に事欠かない。
 都合がいいというものだ。小七郎はそこで手下の者たちと七方出の術でそれぞれ変装する。僧、行商人などおのおの違う装となった。
 まずは小七郎が表に出る。いっぺんに出ると目立つためだ。時を置いてそれぞれが出立する手はずとなっている。
 それにしても、とわざと考えるのを先送りにしていた事柄に意識を向けた。
 まさか、生きておったとは――興奮がみぞおちに火をつけていた、身のうちが熱い。
 周囲に怪しい者がいないか気を配りながらも記憶を反芻する。
 天竺人をかばった男。
 あれは間違いなく了斎――憶えている面立ちと、あの場にいた男とがかさなっていた。増えたしわやややたるんだ面の皮などをのぞけば寸分違わない。
 了斎と小七郎は因縁の仲になる。少なくとも自分はそう思っていた。
 毛利家に仕える忍び者、座頭衆。そのなかで一番の業前として常にあがるのが了斎という男だった。人の心の機微を巧みに呼んで内情をさぐり、刀槍の業でもっても家中の剛勇の士にもおとらぬと称された。
 あやつのせいで――小七郎はいつも“二番手”に甘んじることとなったのだ。
 ほとんど同じ齢の男に遅れをとっていることに対し常に苦渋を噛みしめていた。いつか見返してやる、見ておれ――その言葉を胸に小七郎は忍び働きに精を出した。
 それでも了斎には一歩ゆずるというのが毛利家家中や忍び者たちの評価だ。
 しかし、
 今、考えれば張り合いのある日々であった――。
 それが小七郎の本音だ。
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