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   二

 夜、ロレンソはとある寺をおとずれていた。ひとりではない。むしろ彼は同道した立場に過ぎなかった。
「大友家と毛利が敵対する情勢です。敵を同じくする者たちとは通じておくに越したことはありません」
 そう告げてロレンソをここまで連れてきたのはアルメイダだ。この司祭(パードレ)はふたつの顔を持ち合わせている。
 ひとつは周囲の者なら誰でも知っている布教者としての顔。
 そして、もう片方は“耶蘇教の軍師”としてのそれだ。
 もともと彼は商人だった。そのために大友家の火器弾薬の調達のための働き、また切支丹大名への金銭的援助のために動いたこともある。そうしているうちに、彼には日の本における剣呑な厄介事の処理が求められるようになったのだ。
 商人として俗世で生きていたため、そういった経験もなく耶蘇教に入信した者にくらべると世事に通じて目端もきく。
 寺のお堂に座して会談の相手を待ちながらロレンソは視界にはいるアルメイダの表情をひそかに観察していた。
 そう、“観察”している。実はロレンソは目が見えるのだ。魚の鱗を眼球にかぶせることで盲目をよそおっていた。
 師のヴィレラに出会ったときにこの状態だったため、実は盲目などではないという事実を明かす機会を逸して今にいたっている。
 ただ、アルメイダはそんな“嘘”を知っているため彼の前では鱗を目からはずすのだ。
 ふとした拍子に正体が露見した、それ以来、ロレンソとアルメイダは奇妙な共犯関係のごときものでむすばれている。
 正直なところ憂鬱だ。忘れてしまいたい過去を知られてしまっている。ために、いつまでもそこからのがれられない。
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