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「これが仲間を持つ者の力です、庄右衛門」
 他人を道具のようにしか考えなかった男へ、小平次は憐れみを込めて告げた。
 ただ、その声が当人に届いたかは分からない。
 その瞬間には、庄右衛門は意識を失ってその場に仰向けに倒れだしていたからだ。
 ほかの浪人も犬の合力もあって、すぐに片づけることができる。
 小平次はなんだか一気に肩の荷が下りた心地がした。やっと、本当に家中の忍びから抜け出せた心地がする。
 それは手下たちも似たようなものだった。
「何事だ」「おい、誰か御用聞きの旦那を呼べ」
 などという声が聞こえる頃には、その場をあとにしていた。

   終章

 陽が沈んだのちに店を出るとき、
「しようがありませんね」
 と孫作は淋しさと祝福が半々といった表情でつぶやいていた。今日は月見のために小平次は豊と連れ立って他出してきたのだ。場所は浅草川(隅田川の下流部分)のほとりだ。周囲にいくつか人影はあるが余人の邪魔などという野暮なことをしないようそれぞれ距離を置いている。
 無宿忍び衆の一件の折に祖父を亡くした経験は小平次から豊との付き合いへのおびえを取り除いていた。
 確かに祖父を看取れなかったことは悔やまれる。だが、祖父の最期に立ち会うためにあの件を投げ出していたらと思うと、それはもっと後悔していたと思うのだ。
 だったら、とにかくできることはやっておくべきだ、そんなふうに小平次は考えるようになっていた。また、夢の中での祖父との邂逅が、無意識のうちに抱いていた母親に由来する女性への恐れを緩和してくれたことも大きい。
「綺麗ですね」「はい、綺麗です」
 多くの言葉はいらなかった。すぐ側にいて、同じ空を見上げているというだけで満たされるものがある。空で輝く月の光が、浅草川の水面で細切れの布地のごとくなって反射して躍っていた。
 が、ふたりを邪魔する者が現れた。一声、吼える声があたりにひびく。
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