忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 今、馬二は一列縦隊の形で仲間の最後尾に立っている。弩を構えつつも、肩には弓に腕を通してたずさえ弩よりも連射が利く得物として今回は持ってきていた。すでに何軒もの百姓屋、納屋をあらためていた。迷惑そうな、あるいは戸惑った顔の百姓たちを目にすること数度、そのときはおとずれる。
 朴訥な顔をした初老の男が顔をのぞかせた。刹那、家屋の戸口近くの壁が突如として矩形にになって外に吹き飛んだ。あらかじめ、携帯用の鋸である錏(しころ)で切れ目が入れてあったのだろう。暗かったことと、すこし戸口から離れていたことで気づけなかった。
 戛(かつ)、それでも瞬時に狙いをつけて矢を放った馬二の技量は卓越している。
 が、敵も即席の楯を構えたため一矢は防がれた。転瞬、今度は後方から殺気を感じる。
「馬二、太蔵、定二は後方に備えてください」
 すばやい命令にしたがい、馬二たちは殺気の方向に視線を向ける。
 風を巻いて迫ってくる集団があった。手分けして探索に当たっているのかこの村に姿を見せたのは四人だ。
 馬二は弩を足もとに捨て、すぐに弓を構え矢をつがえる。放つ、弦音(つるおと)が鋭く鳴った。
 が、あっけなく御庭番たちはこれを避ける。それでもいい、すこし足取りが鈍っただけでも僥倖だ。
 馬二の一矢を囮に、太蔵が毒焙烙火を投げつけた。風向きを読んだ上での投擲だ。
 次々と放って煙の“壁”を生じさせた。煙を避けるために敵の足が一時的に止まる。そこに定二が飛び出していった。煙を割って猛然と打ちかかる。彼の腕が電光の速度で動き、錫杖が弧をえがいた。
 毒を中和する酢を染み込ませた布で口もとを覆っているとはいえ捨身の攻撃に、ひとりの御庭番がもろに一撃を受けて頭蓋を砕かれる。
「やってくれるな」
 とたん、興奮した叫びが御庭番のひとりから漏れた。
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