114 / 141
114
しおりを挟む
『けれども悲しまないでくだされ。手前は最期のときまで忍びとして生きられたことを誇りに思っておりまする。それもこれも先代やお頭のお陰です。人との付き合いが苦手な自分が忍びとして働けたこと望外の喜びでございます。また、すこしでもお頭のお役に立てたのなら幸いでございます』
逃げる途中は我慢していた涙がしたたり落ちて書状を濡らす。
『すべての不幸から逃げることは叶いません。できるのは、目を逸らすか徹底的に向き合って抗うことです。お頭は何もかも抱え込み我慢なさるところありまする。それはお止めなさい。いらだたしいのなら大声を出し、悲しいのなら涙を流し、抱えきれない大きさの感情を減じさせた上で受け止めなされ。それと、吉足のことをお願いします』
そこで手紙は終わっていた。
死を見据えた上で自分を気づかってくれていた、そのことに小平次は胸を熱くする。ますます、頬を濡らす涙の量は増えた。ついには、小平次は重左エ門の忠言にしたがって声をあげて泣き出した。
悲しい。それは確かだ。だが一方でなんだか妙な解放感をおぼえた。
それを目の当たりにし、残りの手下たちも涙を流し始める。重左エ門の弔いは湿っぽくおこなわれた。
余人から見たらみっともない光景だろう。だが、知ったことではない。
大事なのは自分たちにとって“どう”なのかだ。
厠で用を足した小平次は、濡れ縁の途中で足を止めて空を見つめていた。
死んだ者の魂のすべてが天に昇って輝いているかのように、無数の星が儚く煌めいている。ここでこうしているあいだにも祖父がそこに加わるかもしれない。
仲間をひとり喪った。祖父のいない今、自分をいれて頭数は四人。村人から聞いた話と、馬二が目撃したという話と合わせて考えると無宿忍び衆は合計六人だ。奇襲は警戒されているから、正面からぶつかる可能性が高い。しかし、それで勝てる公算は低いよしんば勝てたとしても、また仲間に犠牲が出る。
逃げる途中は我慢していた涙がしたたり落ちて書状を濡らす。
『すべての不幸から逃げることは叶いません。できるのは、目を逸らすか徹底的に向き合って抗うことです。お頭は何もかも抱え込み我慢なさるところありまする。それはお止めなさい。いらだたしいのなら大声を出し、悲しいのなら涙を流し、抱えきれない大きさの感情を減じさせた上で受け止めなされ。それと、吉足のことをお願いします』
そこで手紙は終わっていた。
死を見据えた上で自分を気づかってくれていた、そのことに小平次は胸を熱くする。ますます、頬を濡らす涙の量は増えた。ついには、小平次は重左エ門の忠言にしたがって声をあげて泣き出した。
悲しい。それは確かだ。だが一方でなんだか妙な解放感をおぼえた。
それを目の当たりにし、残りの手下たちも涙を流し始める。重左エ門の弔いは湿っぽくおこなわれた。
余人から見たらみっともない光景だろう。だが、知ったことではない。
大事なのは自分たちにとって“どう”なのかだ。
厠で用を足した小平次は、濡れ縁の途中で足を止めて空を見つめていた。
死んだ者の魂のすべてが天に昇って輝いているかのように、無数の星が儚く煌めいている。ここでこうしているあいだにも祖父がそこに加わるかもしれない。
仲間をひとり喪った。祖父のいない今、自分をいれて頭数は四人。村人から聞いた話と、馬二が目撃したという話と合わせて考えると無宿忍び衆は合計六人だ。奇襲は警戒されているから、正面からぶつかる可能性が高い。しかし、それで勝てる公算は低いよしんば勝てたとしても、また仲間に犠牲が出る。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~
佐倉伸哉
歴史・時代
その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。
父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。
稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。
明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。
◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093085367901420)』でも同時掲載しています◇
【受賞作】狼の贄~念真流寂滅抄~
筑前助広
歴史・時代
「人を斬らねば、私は生きられぬのか……」
江戸の泰平も豊熟の極みに達し、組織からも人の心からも腐敗臭を放ちだした頃。
魔剣・念真流の次期宗家である平山清記は、夜須藩を守る刺客として、鬱々とした日々を過ごしていた。
念真流の奥義〔落鳳〕を武器に、無明の闇を遍歴する清記であったが、門閥・奥寺家の剣術指南役を命じられた事によって、執政・犬山梅岳と中老・奥寺大和との政争に容赦なく巻き込まれていく。
己の心のままに、狼として生きるか?
権力に媚びる、走狗として生きるか?
悲しき剣の宿命という、筑前筑後オリジンと呼べる主旨を真正面から描いたハードボイルド時代小説にして、アルファポリス第一回歴史時代小説大賞特別賞「狼の裔」に繋がる、念真流サーガのエピソード1。
――受け継がれるのは、愛か憎しみか――
※この作品は「天暗の星」を底本に、9万文字を25万文字へと一から作り直した作品です。現行の「狼の裔」とは設定が違う箇所がありますので注意。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる