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「さて、次の仕掛けと行くか」
 そのうちに、島へと自分を運んだ者が捕まることを予期しながら忍びはその場から身をひるがえす。
 このご時世、加増など望むべくもないが、忍びの余禄というべきか、特別の褒賞を期待できなくもなかった。精々、結果を出して主を満足させなければならない。二君に仕えずなどという意識は持っていないが、主君のために働くことはそういう意味ではやぶさかではなかった。
 その“働き”で余人の命を奪ったことにはみじんの後ろ暗さも忍びは感じていない。

   四

 小平次たちは、瀬兵衛の倅を彼のもとに連れて行った。
 既に日は暮れており、景色は闇に染まっている。当然、屋内にも夜が忍び込んでいるが、灯明が明々と灯(とも)りそれを遠ざけていた。灯明の明るさが子どもがもどるまでは一晩でも待つ、そんな心映えがあらわれているように小平次には感じられた。
倅を認めた瞬間、「幸太」と我を忘れたようすで瀬兵衛は息子に駆け寄り強くその体を抱きしめる。
 その光景を前に、小平次は胸を熱くしながらも他方で寂寥とした思いを抱いた。
 父になつくような齢(よわい)ではない。が、まだ亡くすには早い歳だった。
 だが、父親は鬼籍に入っている。家中の改易が持ち上がる前のあたりに不審死を遂げていた。
「小平次、そなたの父とて泉下では倅の身を案じておる」
 江戸に置いておくわけにもいかず連れてきたが、瀬兵衛のもとに豊とともに留まらせた祖父、彼がはっきりとした口調で話しかけてくる。
 祖父上、小平次はおどろきながら彼を見やった。が、
「そういえば、太平次の奴はどうしたんじゃ?」
 という次のせりふに、小平次は表情を曇らせる。
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