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チャプタ―205

チャプタ―205

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「あっ!」
 とっさに手を伸ばそうとした市右衛門の指先から一寸ばかり先を、幼い時分の己を抱えた平兵衛が勢いのままにすり抜け岩へと衝突する。
 ……身を打ちつけたのは老家臣だというのに、己の胸に痛みが走った。
 反射的に駆け寄る――視野におさめた平兵衛の顔は、記憶よりも多く、深い皺に覆われていた。
 肌の乾き具合も、思い出のなかのそれよりもひどかった。
 当時のそれがしは、こんな老爺に無理をさせたのか……――市右衛門はさらに胸におぼえる痛みが増すのを感じる。
 そんな渠の痛みを代弁するように、
「家老……」
 と幼いほうの市右衛門が家老の名を呼んだ。
「――大事はありませぬか、若?」
 無理やり笑みを浮かべ、渠は己の身を案じるより先に市右衛門の安否を気にした。
 幼い市右衛門は、言葉が出てこず首を左右に振った。
 その自分がこれから発する台詞を、
「なにゆえ……なにゆえ、それがしを助けたのだ、家老?」
 と、とうに元服を果たしたほうの渠は口にした。
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