笑う死霊家臣団 (別名義、別作品で時代小説新人賞最終選考落選歴あり)

チャプタ―１６２

チャプタ―１６２

「若をあまりいじめなされるな、御方様」
　――そこに突如、笑いを含んだ声が聞こえた。
　弾かれたように、ふたりはあさっての方向に視線を向ける。雑魚寝の軍兵たちの間から近づいてくる人影があった。
「平兵衛……聞いておったのか？」
「しかと」
　市右衛門が色を失って発した言葉に、平兵衛は微笑を浮かべてうなずく。
「拙者を出し抜こうなど十年早うござる」
「……」
　事実を知ってなお笑みを崩さない平兵衛に、市右衛門は顔を歪めて言葉を失った。
「拙者の来世のことなど気になさいますな」
「なれど――」
「構いませぬ、若。拙者は御前のためなら、来世など捨てられまするゆえ」
　反論しようとする市右衛門の言葉を、やんわりと、だが確かな意思のこもった声で平兵衛は封じた。
　それでも、市右衛門は無言でかぶりを振る。