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チャプタ―77
チャプタ―77
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「――侍の子でございます」
それが市右衛門の持ちうる――いや、武門の生まれの者が持ちうる答えだ。
だが、『そもそも、おことは侍でおりたいのか?』という言葉は頭の中に残ったまま消えない……。
「それはそうと、おぬしの郎党――ちと、奔放に過ぎるようだの?」
「……申し訳ありませぬ」
再び苦笑を浮かべた兵庫頭に、市右衛門はただ謝るしかなかった。
ほぼ確実に、家臣たちの“色狂い”について言われたのだから――。
だが、苦労させられている相手は家臣だけではない……。
● ● ●
丑三つ時――。市右衛門はふいに、甲冑をまとったかのような身体の重さをおぼえた。
またかッ――胸のうちで悲鳴をあげながら、渠は目を開けて必死に周囲をうかがう。
身体を動かさないのは『金縛り』に遭っているため、それが無理なからだ。
刹那、視界に“影”が現われる。何者か、が己の顔を覗き込んだのだ。
……拳ほどの穴が頭蓋に空いて脳髄がこぼれている、蒼白の武者、それが相手の正体だった。
勘弁せえ……、市右衛門は泣きたい心境になる。が、それで相手が退散してくれるのなら、世の中は苦労しない。
「もし」「な、なんだ」
なんとか自由の利く口を動かし、必死に応じた。
これが“初めて”ではない――無視すると怨霊はどんな行動に走るか分かったものではない。平兵衛たちのような類の連中ばかりではないのだ。
それが市右衛門の持ちうる――いや、武門の生まれの者が持ちうる答えだ。
だが、『そもそも、おことは侍でおりたいのか?』という言葉は頭の中に残ったまま消えない……。
「それはそうと、おぬしの郎党――ちと、奔放に過ぎるようだの?」
「……申し訳ありませぬ」
再び苦笑を浮かべた兵庫頭に、市右衛門はただ謝るしかなかった。
ほぼ確実に、家臣たちの“色狂い”について言われたのだから――。
だが、苦労させられている相手は家臣だけではない……。
● ● ●
丑三つ時――。市右衛門はふいに、甲冑をまとったかのような身体の重さをおぼえた。
またかッ――胸のうちで悲鳴をあげながら、渠は目を開けて必死に周囲をうかがう。
身体を動かさないのは『金縛り』に遭っているため、それが無理なからだ。
刹那、視界に“影”が現われる。何者か、が己の顔を覗き込んだのだ。
……拳ほどの穴が頭蓋に空いて脳髄がこぼれている、蒼白の武者、それが相手の正体だった。
勘弁せえ……、市右衛門は泣きたい心境になる。が、それで相手が退散してくれるのなら、世の中は苦労しない。
「もし」「な、なんだ」
なんとか自由の利く口を動かし、必死に応じた。
これが“初めて”ではない――無視すると怨霊はどんな行動に走るか分かったものではない。平兵衛たちのような類の連中ばかりではないのだ。
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