笑う死霊家臣団 (別名義、別作品で時代小説新人賞最終選考落選歴あり)

チャプタ―６７

チャプタ―６７

　なにしろ、数では勝っているのだ、島津の兵などいかほどのもの――そんな思いが覗いた。――飛電と化した矢が先頭で戦う平兵衛の肩に突き立つのを、出遅れてしまった市右衛門は後方から目撃する。
　戦場に満ちる怒声や悲鳴のせいで声そのものは届かなかったが、平兵衛が身じろぎしたことで渠が痛みに襲われたことが伝わる。刹那、首の太い血の管を割かれたかの如く、熱いものが――ただし、頸部ではなく腹の底から噴出するのを市右衛門は感じた。
　憎い……憎いッ、憎いッ、憎い！
　己の頭蓋の中で、恨みに燃える怨霊の漏らすような声が聞こえる。
　ただ――それは間違いなくみずからの声音だった。
　今さらになってやっと、綴家との戦ですべてを失ったことへの怒りが湧き上がってきたのだ――人の感情の動きとしては自然ではあるが。
　何かを失う、奪われた人間の常としてまずは悲しみ、そして次に抑えようのない怒りに襲われる。その憤怒が、眼前の光景に重なった。平兵衛を傷つけた者たちを殺すのだ――！
　その思いに突き動かされ、市右衛門はついに闘諍へと身を投じる。