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チャプタ―62

チャプタ―62

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 ――が、さすがに一三〇で三〇〇〇余の相手を正面から敵に回すのには無理があった。
 加速度的に島津の軍兵が数を減らしていく。このままでは、ただ討ち死にすることとなる、そういう計算が大将の兵庫頭の頭で働いたのだろう。
「退けェ、川を超えるぞ!」という指示が辺りに響き渡った。

       ● ● ●

「遁走を計った者は斬る!」「ここを先途と弁えよ!」
 騎馬武者たちが、一散に走る士卒を包囲するように馬を駆って喚き立てる。
 ――その目は完全に本気だ。
 伊東勢との死闘で臆して頭(つむり)の巡りの悪くなった者も、壮絶な剣気を浴びせられて渠らの発言が単なる脅しではないことを理解せざるを得ない。
 一〇〇人以下に減った島津の軍兵は怒涛の勢いで木崎原(きざきばら)を横断し、川内側へ駆け込んだ……。
 重い甲冑をまとっての行軍だ。足を取られる者が少なからず居た。
 だが、それを手助けする余裕のある者はいなかった。水面に沈んだ者はそのまま捨て置かれる――中にはその恐怖に負けて近くを通る者にしがみつき、黄泉路に他者を巻き込む人間も現われた。
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