笑う死霊家臣団 (別名義、別作品で時代小説新人賞最終選考落選歴あり)

チャプタ―５７

チャプタ―５７

　三〇〇〇余の伊東勢と一三〇の義弘率いる士卒が鉢合わせしたのだ。
　疾走する伊東勢が林の中が次々と飛び出してきた――物凄い形相だった。行軍していた島津勢は予期しない事態を前に足を止めた。むろん、軍兵に混じっていた市右衛門一同もだ。　なにがどうなっておる？　市右衛門は胸のうちでゆっくりと呻く。
　呆然となって最初に足を止めた島津と伊東の先頭の者――そこに、残りの伊東勢が加わっては同じく立ち尽くす。
　――だが、島津義弘の判断は速かった。相手側の頭数が同数になる前に、
「かかれェェェェェェ！」
　という渠の叫び声が背後の方から響いてきて士卒の身体を震わせる。
　途端、島津の士卒たちは我に返り、喚声を大きく開けた口から噴出させた。
　真っ先に騎馬武者が風を巻いて突撃する。島津に騎馬隊は存在しないが、個々で騎乗している者たちは存在した。
　伊東勢は、未だ林から大将が出てきていない――ために、接敵の情報が伝わっていなかった。
　とっさに逃げるべきなのか、戦うべきなのか判断できない。
　――結果、騎馬武者の繰り出した穂先は容易に敵の喉を貫き、引き裂き、斬り飛ばす。
　槍が敵を貫いた者は、即座に柄を回し、獲物から穂先を引き抜いた。そうでなければ落馬してしまう。