笑う死霊家臣団 (別名義、別作品で時代小説新人賞最終選考落選歴あり)

チャプタ―４９

チャプタ―４９

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　市右衛門が対峙したのは、やや顔立ちの独特な若者だった。手には棒を携えている。
「こやつは、唐土(もろこし)より流れ着いた兵法者だ。玄妙な技を使うゆえ、心してかかるがよい」
　判じ役の肝属兼盛が、親切心からか開始の合図の前にこちらにそんな言葉をかけてきた。
「……ご忠告、かたじけない」
　心せよ、と言われても具体的にどんな理合の元に生み出された流儀なのか分からなければどうしようもない、そんな思いを抱きながら慇懃に応じる。
　そんな渠の前で、唐土の遣(つか)い手は勢いよく縦横無尽に棒を回転させた――どうやら、機敏で激しい動きが特徴のようだ。
　相手の目は、棒を操りながらも静かに挑むようにこちらを捉えている。
　己の流儀の理合の一端をわざと見せたのだろう。
　未知の棒術が相手だったために負けた、そんな言い訳を許したくないと思ったのだろうか――どうやら、律儀な性根をしているようだ。
　――市右衛門は、静かに木剣を下段に取った。これを『無形(むぎょう)の位(くらい)』という。
　新陰流は敵の動きに即座に反応し、動かない対手には攻撃を誘い、技を出させた上で勝つことを教えている。それを究極的に体現した構えだ。どのような技を出すか相手に悟らせない、そういう利点も無形の位にはある。
「用意はよいな？　――始め」
　肝属兼盛の合図と同時に、唐人は動いた。こちらから見て横に回転させる軌道で棒を一閃。