笑う死霊家臣団 (別名義、別作品で時代小説新人賞最終選考落選歴あり)

チャプタ―２２

チャプタ―２２

　主君と家臣が云々という話はこの際、置いておいたとしても、魂のみの存在となって甦ってどうしてこんなふうに暢気に振る舞えるのか――市右衛門は不思議でしょうがない。当の本人ではないが、それでもこちらは狼狽(うろた)えているというのに。
「面食らったという割には悠々としておるな、おぬし」
「慌てふためいたところでどうもなりますまい？　なにしろ、すべての終焉たる死すらも越えてしまったとなると、これ以上最悪の出来事はおそらくはありませぬからな」
　半眼になる市右衛門に、右京亮は飄々と答えてみせた。
　まことに悩んでおるのが莫迦らしゅうなるな……――。
　そこに、迅影(はやかげ)が戸口から飛び込んできた。
　一瞬、地下が報復にでも来たかと市右衛門は床に置いていた太刀に手が伸びかけた――が、相手が八九郎がとり憑いた陰気な顔つきの子供だと気づいて、腕から力を抜く。
「辺りに地下人の姿はありませぬ。どうやら、随分と遠くから落ち武者狩りに出向いてきたようで」
　皮肉混じりに、物見（斥候）の結果を報告した。さらに、
「せっかくと甦ったのだから、一人や二人、この手にかけとうござったというのに、ひゃっ、ひゃっひゃっ」
　不気味な笑みを浮かべ、剣呑極まりないせりふを吐く。
　ちなみに、幽霊となって甦ったからこういう言動をしているのではなく、生前から八九郎はこういう心根の持ち主だ。
　かつては東国で透波として大名に仕えていたというが、この気性が災いして家中を追われ、西国へと流れてきたとも聞いている……信憑性はかなりあると思うが。