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チャプタ―18
チャプタ―18
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……それでも、身体はぴくりとも動かない。
ひじ、肩、ひざ、股関節の動きから、斬撃が“来る”のが分かった。
途端、視界が稲光のごとき閃光に包まれる。
ただ、その“光”は上ではなく“横”から向かってきた。
それも、“一条”と表現するような“線”ではなく水面に生じた波紋のごとく“面”で祖の場にいる者すべてにくわえ、周囲の木々も呑み込んだ。
閃光の範囲は、地下人たちの包囲のさらに外、一、二間ほどに及んでいる。色合いは紫や青の紫陽花を思わせる鮮やかなものだ。
五つほどの数をかぞえる時間で閃光は消えた……。
が、代わりに市右衛門の視界に“現われた”者たちがいる。
「へ、平兵衛……」
かすれた声でその名を呼んだ。
平素の声音を出せなかったのは、相手の姿に原因がある。
――まず、相手は半透明だ。
青白い、黎明の空を思わせるような色合いの肌をしていた。
そして何よりも目を引くのは、その身体に生じている“傷”だ。
平兵衛の腹には甲冑を貫通し身体に達する複数の“穴”が生じている――槍の傷だろう。
……死んだときの姿で渠は出現したのだ。
それは他の者も変わらない。
市右衛門の家臣たち――透波の竹下八九郎、剣術指南の奴賀清次郎、近習の偆道右京亮といった面々も明らかな致命傷を身体に負っている。
つまりは、父の家臣たちの幽霊が眼前に現われたということになるのだ。
だから、渠らとの再開を素直に喜ぶことができない。
ひじ、肩、ひざ、股関節の動きから、斬撃が“来る”のが分かった。
途端、視界が稲光のごとき閃光に包まれる。
ただ、その“光”は上ではなく“横”から向かってきた。
それも、“一条”と表現するような“線”ではなく水面に生じた波紋のごとく“面”で祖の場にいる者すべてにくわえ、周囲の木々も呑み込んだ。
閃光の範囲は、地下人たちの包囲のさらに外、一、二間ほどに及んでいる。色合いは紫や青の紫陽花を思わせる鮮やかなものだ。
五つほどの数をかぞえる時間で閃光は消えた……。
が、代わりに市右衛門の視界に“現われた”者たちがいる。
「へ、平兵衛……」
かすれた声でその名を呼んだ。
平素の声音を出せなかったのは、相手の姿に原因がある。
――まず、相手は半透明だ。
青白い、黎明の空を思わせるような色合いの肌をしていた。
そして何よりも目を引くのは、その身体に生じている“傷”だ。
平兵衛の腹には甲冑を貫通し身体に達する複数の“穴”が生じている――槍の傷だろう。
……死んだときの姿で渠は出現したのだ。
それは他の者も変わらない。
市右衛門の家臣たち――透波の竹下八九郎、剣術指南の奴賀清次郎、近習の偆道右京亮といった面々も明らかな致命傷を身体に負っている。
つまりは、父の家臣たちの幽霊が眼前に現われたということになるのだ。
だから、渠らとの再開を素直に喜ぶことができない。
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