笑う死霊家臣団 (別名義、別作品で時代小説新人賞最終選考落選歴あり)

牛馬走

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チャプタ―10

チャプタ―10

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 降り出した雨がかえって心地いい。全身が脂汗で濡れていたからだ。
 戦に巻き込まれるかもしれない、雨に打たれているせいでこのままでは病を得るかもしれない、それでも構わなかった。
 そうしなければならない事由が道明にはある。
 道生(どうしょう)……必ず生き返らせるからな――渠は胸のうちで血を吐くような思いで言葉を吐いた。
 雨音すら打ち消そうというかのごとく、道明は呪文を声高に唱えつづける――。

    三

 市右衛門の悪い予感は杞憂では終わらなかった。
 轟音が轟いた。
 森の中、降雨の最中でも確かに硝煙が広がるのを渠は見逃さない。
 鉄炮ッ――市右衛門は胸のうちで悲鳴じみた声を漏らした。種子島というのは俗称で、実際のところは名称としてあまり用いられなかった。
 あのような物、小土豪の分際でどうやって手に入れたというのか。
 突風に煽られたか細い稲のごとく士卒たちが次々と倒れる……だが、それで攻撃が終わるはずがない。
 ――木々の間から喚声が湧く。
 刹那、刀槍を閃かせて士卒たちが木陰から姿を現した。
 目を爛々と輝かせ、甲冑の擦れる音、怒涛の足音を響かせながら柏木家の兵に殺到する。しかも、後世でいうところの横陣の柏木家に対して、綴家の側は縦陣で突っ込んだ。
「者共、怯むなッ。迎え打てェェェェェェ!」
 市右衛門の父が叫ぶ声がつかの間、雨音を押しのける。
 それに応え士卒が各々、得物を構えた――陽光のない灰色の世界で、かえって銀光は冴え冴えと網膜に映る。
 ――槍の穂先と穂先、柄と柄、勢い余った者は全身で衝突し甲冑と甲冑を衝突させる……この瞬間、脳天を叩き割られ、喉を裂かれ、腹に穴を開けられ、多くの者が命を落とした。
 対岸からその光景を見つめていた市右衛門は、ただただ口を半開きにして声も出せずに渠らの死に様を凝視するばかりだ。
「右京亮……」
 骸となって地面に横たわった者の中に、己の兵法指南を行った親しい間柄の人間が混じっていることに市右衛門は気づく。
 平士騎馬部隊を組頭として従えていた近習の右京亮が、敵の複数の槍に貫かれて馬から落ちていた――。
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