笑う死霊家臣団 (別名義、別作品で時代小説新人賞最終選考落選歴あり)

チャプタ―６

チャプタ―６

　――兵を進めていると雨が降り始めた。
　進路には普段は徒歩で渡れる川がある。が、雨で水量が増えればそれも困難になるはずだ。
　その焦りから、
「足を速めよッ。今のうちに渡河を済ませるのだ！」
　という父の声が聞こえてくる。
　市右衛門は、なんとなく己が叱られているような気分で少し首をすくめた――。
　そうしているうちに士卒の列は川にさしかかり、渡河を始める。
　雨足は徐々に強くなりつつあり、視界不良が起こっていた。
　どうにも、嫌な予感がする……――市右衛門はそんな思いを抱いている。
　父の近習にして柏木家の軍師でもある右京亮から渠は兵法の指南を受けているがゆえの感覚だ。
　川を渡るときはどうしても戦力が分散してしまう、このときに襲撃を受けると圧倒的な不利を強いられることになるのだ。
　特に、この地点は川の向こうに木々が生えており敵勢が隠れるのに好都合だった。
　どうするべきか――元服したばかりであり、さらには「おぬしはどうにも頼りない」と父に日頃から評されている身だ。
　己の抱いた懸念を父につたえることに躊躇をおぼえる……。
　そう考えながら、視線を巡らせ父の姿を求めた――すると、側には右京亮の姿があった。どうやら、渠も同じ結論にいたり直訴しているようだ。
　が、精悍な風貌の父は、それを首を左右に振って拒絶する。
「渡れるうちに渡っておかねば、敵と干戈を交えることすら叶わぬぞ！」
　苛立たしげに張り上げた声がやや離れた場所にいる市右衛門の元にも届いた。
　これはそれがしの言葉などお聞き入れにはなるまい――市右衛門はやる前から諦める。