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161・了

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「うぬのせいでそれがしすべてを失った」
 そう告げて凄絶な目で彼を睨むのは父の平次郎だった。旅装の武士を思わせる身なりはさほど乱れていないが総身から荒んだ空気が立ち上っている。
 平次郎はこちらの返答を待たずに迅影と化した。
 電光石火の動きは途中で唐突に制止する。平太の必殺の刺突の一撃、光陰がその左胸を一瞬裡でとらえたのだ。
「これでほんとうにすべてを失ったな、親爺」
 平太の言葉に、みずからをあざ笑うような笑みを平次郎は浮かべる。平太が剣尖を引き抜くと、彼は呆気なくその場に倒れ伏した。

 父の死の分、平太の足取りは軽くなっている。
 そろそろ、親分のもとにもどって仕事を引き受けるのもいいか――。
 そんなことを平太が考えるのを見越したように、犬の鳴き声が聞こえてきた。甲州の方角から一匹の犬が駆け寄ってきているのが視界に入る。その姿は桃に瓜二つだった。首には竹筒が見受けられる。
 人手が入用となり雉か猿を寄越したのだろう、と平太は見当をつけた。
「ようござんしょう」
 見事、渡世人飛脚の仕事、果たして見せやしょう――胸のうちでつぶやき足取りを速めた。この二本の足があればどこにでも行ける。
                                                                                         了
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