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「兄ちゃん」
落胆する平太の腰のあたりに源太郎丸が抱きついてきた。
とたん、平太の口もとに笑みが浮かんだ。これでいい――。
あっしは親父と同類にならずに済んだ――そう声に出さずにつぶやいた。
その後、敵はほぼ駆逐された。
生き残った火付盗賊改も、又一郎に剣を突きつけられた。
「逃がしてやっても構わねえんだが、それには条件がある。今日のことは忘れな」
そうでないと、無宿に見逃してもらった、という事実を公儀に耳に届けるぞ。武門不覚後で御家取り潰しの憂き目には遭いたくはないだろう、その脅しに屈服し、彼と手下の与力、同心、目明しを下がらさざるを得なかった。
終章
渡世人を中心に奇妙な風聞が流れていた。犬を供にした凄腕の渡世人が現れたというのだ。
むろん、正体は平太だった。梅吉一家との争いのこともあり、彼の名前は一気に無宿のあいだで知れ渡ったのだ。
しかし、犬の桃を連れて歩く姿は暢気に見えて仕方がないだろう。
もっとも、平太はまったく気にしていない。
「喉は渇いてないか、桃?」
声に出して桃に話しかける。それに桃が一声応じた。なんとなく否定の意味に取れる気がした。
「おまえのおっかさんのおかげであっしは生きられるんだ、遠慮はしねえでくれよ」
それはまさに事実だ。
かつて、平太が幼い時分に川で溺れたのを助けてくれた犬、それが桃の母なのだ。
その子どもたちを甲州に移ってきた周太が拾い、人づてに母が桃と呼ばれていたのを聞いてそのうちの一匹に同じ名前を与えたのだった。
もっとも、あの仁は周太じゃあなかったが――。
落胆する平太の腰のあたりに源太郎丸が抱きついてきた。
とたん、平太の口もとに笑みが浮かんだ。これでいい――。
あっしは親父と同類にならずに済んだ――そう声に出さずにつぶやいた。
その後、敵はほぼ駆逐された。
生き残った火付盗賊改も、又一郎に剣を突きつけられた。
「逃がしてやっても構わねえんだが、それには条件がある。今日のことは忘れな」
そうでないと、無宿に見逃してもらった、という事実を公儀に耳に届けるぞ。武門不覚後で御家取り潰しの憂き目には遭いたくはないだろう、その脅しに屈服し、彼と手下の与力、同心、目明しを下がらさざるを得なかった。
終章
渡世人を中心に奇妙な風聞が流れていた。犬を供にした凄腕の渡世人が現れたというのだ。
むろん、正体は平太だった。梅吉一家との争いのこともあり、彼の名前は一気に無宿のあいだで知れ渡ったのだ。
しかし、犬の桃を連れて歩く姿は暢気に見えて仕方がないだろう。
もっとも、平太はまったく気にしていない。
「喉は渇いてないか、桃?」
声に出して桃に話しかける。それに桃が一声応じた。なんとなく否定の意味に取れる気がした。
「おまえのおっかさんのおかげであっしは生きられるんだ、遠慮はしねえでくれよ」
それはまさに事実だ。
かつて、平太が幼い時分に川で溺れたのを助けてくれた犬、それが桃の母なのだ。
その子どもたちを甲州に移ってきた周太が拾い、人づてに母が桃と呼ばれていたのを聞いてそのうちの一匹に同じ名前を与えたのだった。
もっとも、あの仁は周太じゃあなかったが――。
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